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(大機小機)シェアリングエコノミーと税制 - 税制のキャッチアップまでのギャップを逆手に取った先行者利益のビジネスモデルもありです

■ タックスプランニングは、国際税務の専売特許ではない!



一般的に、タックスプランニングの語は、①税効果会計における繰延税金資産の回収可能性を裏づける試算をすること、②税金コスト(主に法人税)を最小化するスキームを立案すること、この2つの意味合いのどちらかで用いられることが多い言葉です。今回は、②の意味をもっと延伸して、③各種税制を駆使して、課税コストの最小化を狙ったビジネスモデルを構築すること、の意で、次のコラムを味わっていきたいと思います。

2017/2/23付 |日本経済新聞|朝刊 (大機小機)シェアリングエコノミーと税制

(注)日本経済新聞の記事へ直接リンクを貼ることは同社が禁じています。お手数ですが、一旦上記リンクで同社TOPページに飛んでいただき、上記リード文を検索すればお目当ての記事までたどり着くことができます

「2月5日付本紙によると、規制改革推進会議は「ライドシェア」の解禁を検討しているとのことだ。記事によると、ライドシェアは一般のドライバーが料金を取って自家用車で利用客を送迎するサービスで、急増する訪日客の交通事情への対応が背景にあるとみられる。」

新しいビジネスモデルを模索し、競合企業のどこよりも先行して新たな市場を創出し、追随者が出てきたときには、①圧倒的な競争優位で跳ね返す、または②そこまでに先行者利益を刈り尽し、次のビジネス開発への原資とする、という事業戦略が採用されることは多々あります。当然、パイオニアにはリスクもつきもので、その代表的なものに、税務リスクがあります。得てして、税務は新しいビジネスモデルを見越して整備されることは少なく、大勢は、新たなビジネスモデルを追随して税制を整えるしかありません。そのタイムラグを格好のビジネスチャンスとできるかどうか、それは企業経営者と財務・税務担当者の腕の見せ所となります。


■ シェアリングエコノミーが内包する税務リスク=税制タイムギャップ戦略とは?



税制が整備されるまで、従来の税制の枠組みの中で合法的に企業者利得を最大化することは、短期的な株主利益に忠実な企業行動なので、特にアングロサクソン流の経営術では当たり前のことです。これを「税制タイムギャップ戦略」とでも呼称しておきましょう。最近の例では、越境ECについて、2016年4月8日から中国政府による、課税や商品検閲を免れる直送モデルの代表例として、個人が行う「代理購入(代購)」の排除が目的の課税強化策が打たれ、代購ビジネスボリュームが激減し、日本のインバウンド消費に少なからず影響を及ぼしたことは、まだ記憶に新しいことと思います。

本コラムでは、「シェアリングエコノミー」に対する税務対応に関する問題点をかなりの網羅性で言及しているので、本記事を再整理する形で簡潔にまとめていきたいと思います。

配車サービスで有名なウーバーテクノロジーズは、日本でのビジネス展開を何度も当局の規制により掣肘を受けています。

● 2015年4月
2月から福岡市で始めた配車サービス実験が「白タク」にあたるとして、国土交通省が中止を指導

2015/4/3付 |日本経済新聞|朝刊 ルール破りか革新か ウーバー騒動、日本上陸(真相深層)

(同記事添付の「米ウーバーが福岡で実施した実験の仕組み」を引用)
20150403_米ウーバーが福岡で実施した実験の仕組み_日本経済新聞朝刊


● 2016年2月
富山県南砺市で、訪日客の受け入れ体制を充実させようと田中幹夫市長主導で予算計上のプランを発表。これにタクシー業界がかみつき、市議会議員へ根回しして、市が3月に実験予算を撤回

2015/4/3付 |日本経済新聞|朝刊 ルール破りか革新か ウーバー騒動、日本上陸(真相深層)

個人が持つ遊休資産(スキルなどの無形資産も含む)を使うサービスは、遊休資産の活用による収入を貸主にもたらし、かつ同時に借り主の利便性も高まります。提供者と利用者の双方に新たな価値を生み出す「シェアリングエコノミー」は国際的にも注目されている新たなビジネスモデルです。

(参考)
⇒「シェアエコノミーとギグ産業における規制と税制の対応とは - エアビー、ウーバー、ビール系酒税、TV録画代行を例にとって

しかし、シェアリングエコノミーを実践した場合、従来の税制では、「個人事業者」と「被雇用者」の識別が曖昧になり、所得税および法人税の双方でどういう課税体制を採ったらよいか、制度設計に苦慮しているところです。税制が整うまでの隙間を逆手にとって企業者利得を最大化しようというのが、税制タイムギャップ戦略なのですが、ウーバーテクノロジーズについては、吉と出るか凶と出るか?


■ ウーバーの税務リスク=税制タイムギャップ戦略を簡単に整理すると?



ウーバーのビジネスモデルについて、税制に関する課題の前に、配車サービスに参加するドライバーに対して、労働法規や社会保険料の問題も指摘されていますが、税務ではどうでしょうか?

(1)所得税
① 徴税コストをかけずに公平に課税する方法
自家用車でウーバーの運転手をして所得を得る人の情報をどうやって税務当局は集めるのか?
ウーバーに源泉徴収義務を課すことが可能なのか?

② 給与所得と事業所得の区分
・被雇用者(サラリーマン)と個人事業主の線引きが曖昧になる
・確定申告で計上する経費に違いが生じる
- 事業なら必要な経費を差し引いた額が所得
- 給与なら給与所得控除額を差し引いた額が所得
・消費税の課税区分が異なる
- 事業所得は課税対象取引
- 給与所得は課税対象外
・源泉所得税額の違い
- 事業所得は一定の「報酬」について源泉が必要(税率は10%が一般的)
- 給与所得は「給与所得の源泉徴収税額表」に従う

(2)消費税
・ドライバーが個人事業主ならば、事業規模により免税事業者になり得る
・ドライバーが被雇用者ならば、ウーバーが消費税の納税義務を負うことになる

(3)法人税(国際税務)
・PE課税
「PE」(Permanent Establishment)とは、恒久的施設のことで、事業を行う一定の場所等を指します。恒久的施設は、非居住者および外国法人の課税関係を決める上での大きな指標となります。つまり、非居住者および外国法人が日本国内で事業を行っていても、日本国内に恒久的施設を有していない場合には、その非居住者および外国法人の事業所得は日本で課税されることがないのです。これを「恒久的施設なければ課税なし」といって、事業所得課税の国際的な基本ルールです。

日本の場合は、
①「支店PE」支店、出張所、事業所、事務所、工場、倉庫業者の倉庫および鉱山・採石場等天然資源を採取する場所
②「建設PE」建設、据付け、組立て等の作業、またはその指揮監督の役務の提供を1年を超えて行う場合のその場所
③「代理人PE」国内に自己のためにその事業に関し契約を結ぶ権限のある者で、これを常習的に行使する者や、商品等の資産を保管し顧客への引き渡しを行う者、あるいは注文の取得等の重要な部分をする者
(法人税法141条、法人税法施行令185条、186条、所得税法164条、所得税法施行令289条、290条)

という建付けになっています。

しかし、ウーバーは、インターネットで配車するというプラットフォームを提供する会社であるため、ネットが発達した時代に日本国内に法人をつくる必要はなく、ましてや課税の根拠となる子会社や支店なども置かずにビジネスを展開(集客と代金回収)でき、現行制度では法人課税を逃れられると考えられます。

「現に米アマゾン・ドット・コムは日本の消費者を相手に大きな利益を得ているが、日本で1銭も法人税を払っていない。米国に本社を置くウーバーは、タックスヘイブン(租税回避地)のオランダに中間持ち株会社をつくり、そこに無形資産を移して欧州でビジネスを展開しているようだ。」(同記事より)


■ シェアリングエコノミーとPE課税



パナマ文書、タックスヘイブンと、最近では国際課税についても注目が集まっています。

2016/10/3付 |日本経済新聞|朝刊 税逃れ防ぐ国際ルール始動 日本企業対応大詰め

「多国籍企業が各国の税制のずれを利用して課税逃れをするのを防ぐため、国際課税ルールを見直す「BEPS(税源浸食と利益移転)プロジェクト」が実施段階を迎えている。各国は国内法への反映を進めており、日本の2017年度税制改正でも焦点の一つだ。日本企業は対応を迫られる中で、欧米より低かった税務戦略への意識を高めつつある。」

(同記事添付の「15の行動計画と各国に対する拘束力の強弱」を引用)
20161003_15の行動計画と各国に対する拘束力の強弱_日本経済新聞朝刊


上表にある「行動7:課税対象となる恒久的施設(PE)認定の人為的回避の防止」「行動1:電子商取引の課税上の課題への対応」が、本件への当局からの課税強化の目玉になっています。

「現行の税制度はシェアリングエコノミーに追いついていない。ニュービジネスの芽を摘むことなく、適正公平な課税の検討を国際社会と連携しつつ進める必要がある。」(冒頭記事より)

シェアリングエコノミー等が経済・企業活動に占める比率がこのまま大きくなっていくとしたら、従来の法人単位の課税が連結グループを対象とする「連結納税」「グループ法人税制」制度へ移行しつつある国内課税の進化がさらに進み、課税当局が国民国家の枠を超えて、国際組織そのものへ昇華する日もそう遠くないと推測します。

足元では、国民国家(ネイションステート)から、EUなどの広域政治経済単位へ統合する方向から、一時的に時計の針が逆回転し、EUからの英国の離脱、トランプ大統領の誕生、フランス大統領選におけるEU離脱支持候補の優勢などが観察されています。

しかし、さらに巨大化する多国籍企業、国境をいとも簡単に超えるネット技術に基礎を置く企業活動(EC等)の隆興、ネットワーキングする経済活動(シェアリングエコノミー、クラウドソーシング、クラウドファンディング等)に即応して、消費者としてではなく、福祉サービスを享受したい一般市民の生活を守るための原資獲得目的の課税や各種公共サービス提供の実体として、国民国家というフレームワークは時代遅れとなりつつあると思います。
(おっと、経営・管理会計の枠組みを超えて、趣味である国際政治学の領域に言が進んでしまいました)(^^;)

(注)職業倫理の問題から、公開情報に基づいた記述に徹します。また、それに対する意見表明はあくまで個人的なものであり、筆者が属するいかなる組織・団体の見解とも無関係です。

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将来の収益性で計算なら…非上場株の減額認めず 最高裁、株主訴え認める M&A、算定法統一へ

■ 裁判所が「収益還元法」の計算メソッドを決定することが本当にできるのか?

経営管理会計トピック
「食品卸のセイコーフレッシュフーズ(札幌市)が2012年に吸収合併した道東セイコーフレッシュフーズの株主が、所有する株式を買い取るように請求。合意に至らず、裁判所に公正な価格の決定を求めていた」裁判が、三審制の最高裁でとうとう結審しました。

2015/3/31|日本経済新聞|朝刊 
将来の収益性で計算なら…非上場株の減額認めず 最高裁、株主訴え認める M&A、算定法統一へ

(注)日本経済新聞の記事へ直接リンクを貼ることは同社が禁じています。お手数ですが、一旦上記リンクで同社TOPページに飛んでいただき、上記リード文を検索すればお目当ての記事までたどり着くことができます

「非上場会社のM&A(合併・買収)の際、市場で株を売買できないことを理由に株価を低く見積もることが認められるかが争われた訴訟で、最高裁第1小法廷(池上政幸裁判長)は30日までに、将来の収益などを基に計算する「収益還元法」を使う場合には認められないとする決定をした。」


■ 裁判の経緯と企業価値評価の論点の整理

裁判で争われた経緯は以下の通り。

① 被合併会社の少数株主から株式買い取り請求があり、その買い取り価格の妥当性が問われた
② 買収側は「収益還元法」に基づき、買い取り価格を算定
③ ただし、非上場株式であることから、売買の流動性が低いことを考慮して、②の価格から25%だけ減価した買い取り価格を提示した
④ 最高裁は、「収益還元法」に他の価格算定手段を併用することを禁止した

最高裁第1小法廷の法定理由は次の通り(記事抜粋)。
「『収益還元法は将来期待される純利益などを基に現在の株価を算定する手法で、市場での取引価格との比較という要素はこの手法の中に含まれていない』と指摘。算定手法にない要素を反映させて株価をさらに減価するのは不当」

これを受けて、この判決がもたらす論点を整理します。

【論点1】 「収益還元法」による非上場株式の価値評価をどうやって裁判所が決められるのか

(記事抜粋)
「これまでは市場流動性がないことを理由に株の減価を認める場合と認めない場合があり、実務が割れていた。今後は非上場会社のM&Aで収益還元法が使われる際は、算定方法が統一されそうだ。決定は26日付。」

【論点2】 企業価値評価に際して、複数の手法を併用することには合理性はないのか


■ 【論点1】裁判所が「収益還元法」の計算メソッドを決められるのか

「収益還元法」の言葉上の定義は参照記事に譲るとして、ここでは、ズバリ計算式をお示しします。

「収益還元法による企業価値」= 税引後当期純利益 ÷ (割引率 - 成長率)


税引後当期純利益を使ったのは、
① 株主間の争いなので、企業価値というより、株主価値重視の計算方式でよい
② かつ非上場企業なので、厳密なキャッシュフロー計算が負担だろうと考えたから

より厳密には、「FCF」「NOPLAT」「グロス営業CF」等を使用したりします。
(それぞれの言葉の定義は、ググっていただければすぐ確認できます)

ここでは、成長率は、「税引後当期純利益の毎年の成長率」を指します。

割引率は、市中金利などを参考にしますが、これは対象企業の負担金利より、株主の期待収益率から求めるのが適切です。

ということで、裁判所が、法定の非上場会社のM&Aに使用する「収益還元法」の計算式を、上記の3つの変数について、

① 分子になる「利益」や「キャッシュフロー指標」に何を採用するか
② 上記①の株主の期待収益率を表す「割引率」をどこから引っ張ってくるか
③ 上記①の指標の適正な「成長率」の求め方を裁判所がどうやって定めることができるのか

いくら国権の三権の長のひとつである最高裁でも、この3つを決めるのは難しいと思うのですが、読者の皆さんはどう思われるでしょうか?


■ 【論点2】企業価値算定に複数の手法を併用してはいけないのか

ちょっと長文なので、分かりにくいのですが、「ヤフー」が2014年10月に「カービュー」にTOBをかけたときのプレスリリースをご紹介します。

⇒「株式会社カービュー(証券コード:2155)に対する公開買付けの開始に関するお知らせ

本件は、ヤフーが野村證券にフィナンシャル・アドバイザーとして株価算定を依頼しました。
野村証券は、
・市場株価平均法:621~662円
・DCF法:787~971円
とはじき出しております。DCF法で使用する計算式は分子がFCFということは判明していますが、それ以外は非公開となっています。

一方、カービューは、AGSコンサルティングに同アドバイザー業務を依頼し、
・市場株価法:621~662円
・DCF法:851~1,121円
・類似企業比較法:736~899円
という算定結果を出しています。

ここでのDCF法は、分子に予測FCFを採用、割引率:8.81~10.81%、継続価値の永久成長率は±1.0%としています。

そして、いろいろグダグダ書いてありますが、売買の当事者同士がきちんと複数手法からなる算定結果を持ち寄って、将来事業成長のシナリオなども経営者ヒアリングなどにより確認して、買収株価を吟味しています。

当然両者のDCF法の結果が異なるのも、事業計画の読みの楽観性と悲観性の見解の相違である旨がきちんと説明してあります(まあ、そもそも同じDCF法といっても計算手法は異なりますが)。

ではご参考まで、どれくらいの種類の「企業価値評価」手法があるのか、代表的なごく一部を一覧表でお示しします。

経営管理会計トピック_企業価値評価方法

これだけ種類があれば、そして売買当事者の両者がそれぞれについて計算すれば、計算結果がぴったり同一になることは実務上あり得ません。あとは、それぞれが算定式の確からしさを議論し、株主総会で意思決定すればよろしい。少数派株主の買い取り請求についても同様です。

※ 株式買取請求があった場合において、価格について協議がととのわないときは、裁判所に対して価格の決定申立てをすることができる(会社法117条2項)。

この時、「この手法だけ」、と決めることに何の意味があるのか、逆に疑問です。


■ 司法が企業価値を決められると思うのは幻想です。市場ですら間違えるのですから

裁判に持ち込んで、裁判所が、お役所仕事で「収益還元法による企業価値」を定めることができるのなら、誰も苦労しません。将来の事業計画の確からしさ(FCF、当期純利益や成長率)、株主の期待収益率(割引率)に対して、それぞれ「いくら」と事前に決めてくれるのでしょうか。それは、事業運営、事業への目利きを裁判所に求めるものです。

もし、個々の数字が決められず、計算式だけ最高裁が決めるというのなら、そんなおせっかいは無用です。もう世の中に立派な計算式は会計実務の中で存在していますから。

最高裁の判決は、「一度、『収益還元法』で買い取り価格を決めた、というのなら、『取引事例法』による買い取り価格の補正はみとめない。一回の取引につき、採用できるのは1種類のみとすることが合理的であるから」と言っているようにしか聞こえません。まさしく、条文読みの理屈です。市場ならぬ紙上(机上の意)ならばそれでも許されるのでしょう。

でも経済合理的に考えてみてください。

「収益還元法」で求められた企業価値が、100億円で同額のA社(上場)とB社(非上場)の2社があった場合、あなたは本当にA社とB社が等価に思えますか?

さらに、株式市場が常に効率的に株価形成をしており、その他の変動要因が無ければ、A社の時価総額が常に100億円(ここでは話を簡単にするために、負債はいったん脇に置きますね)を示して、微動だにしないでいる、という仮定の話に同意できますか?

「流動性」=「換金の容易性」自体が経済的価値を有しています。
(額面が同じ定期預金と現金とは厳密には等価ではありませんよ)
そして、「株式市場」ですら、株価形成を常に正しく行えているとは限りませんよ。
(もしそうなら、株式バブルは起こり得ないですからね)
最後に、割引率や将来キャッシュフローは、まさしく人間の期待が生み出すもの。これって誰にも正しい値を予言することはできませんよ。

裁判所(ごく一握りの司法エリート)が企業価値を決められるのなら、資本主義(市場主義)は不要です。経営者は全員失業です。もし可能ならば、全て計画経済でムダが一切ない世の中を裁判所で実現してくださいませ。

(そんな世の中、司法エリートではなく、まだAI(人工知能)のほうに実現できる可能性があります)



テーマ : 会計・税務
ジャンル : ファイナンス

(戦略を聞く)大成建設・山内隆司社長 業績・配当・給与、業界首位に

■ こういうROE重視の風潮に付和雷同しない社長インタビューは好感が持てます

経営管理会計トピック
大成建設の山内社長のインタビュー記事が3/25の朝刊に掲載れていました。大成建設は、「中期経営企画(2015-2017)」を3/27にプレスリリースしていますので、一連のIR的動きのものであると推察いたします。

⇒「大成建設 中期経営計画(2015-2017)」←PDFファイル

2015/3/25|日本経済新聞|朝刊 大成建設・山内隆司社長 業績・配当・給与、業界首位に

(注)日本経済新聞の記事へ直接リンクを貼ることは同社が禁じています。お手数ですが、一旦上記リンクで同社TOPページに飛んでいただき、上記リード文を検索すればお目当ての記事までたどり着くことができます

「大成建設の業績が好調だ。大都市で再開発工事など案件の増加を追い風に、採算を重視した選別受注が功を奏している。2016年3月期から新たな中期経営計画を始める。山内隆司社長は「業績・配当・給与のすべてで業界トップに立つ」と強調する。」


■ 山内社長の目標設定の合理性

山内社長は、新中計にあたって(それ以前からご発言されているのですが)、「『業績・配当・給与』のすべてで業界トップに立つ」という目標設定をされています。

では、足元での競合他社との位置取りはどのようになっているのでしょうか。

筆者も毎日購読している週刊ダイヤモンドが運営している情報サイト「Diamond Online」に格好の比較材料となるチャートがありましたので、出典元を明確にしたうえで、下記に転載させていただきます。

⇒「清水建設の1円増配に揺れる“コップの中”で争うゼネコン(2015/2/24)」
  http://diamond.jp/articles/-/67357

ゼネコン比較_週刊ダイヤモンドOnline_20150224

FY14第三四半期決算時点の状況では、鹿島、大成建設、清水建設、大林組の4社比較は下記のようになっています。

<業績> - 連結営業利益
1位 大成建設 
2位 清水建設
3位 大林組
4位 鹿島

<配当> - 配当性向
1位 鹿島
2位 大林組
3位 大成建設
4位 清水建設

<給与> - 社員平均年収
1位 大林組
2位 大成建設
3位 鹿島
4位 清水建設 

それぞれについて、新聞記事より、方針・施策を抜き出します。

<業績>
「リーマン・ショック時の09年3月期に営業赤字を経験したことが、立て直しへのバネになった。それ以前は受注量の確保に走り、採算への意識が薄かった。受注案件の取捨選択を厳しくし、営業担当から現場監督まで様々な立場の人間が収支計画を立てて採算管理を徹底するようにした。ほかにも建材調達を現場に任せていたが、価格情報を集約する部署を09年に新設した。結果的に他社より安く仕入れられている」

ポイントは2つ。
① 受注時の見積採算の精度向上 → 赤字JOBの削減
② 資材の集中管理購買による調達価格の削減 

いずれも、「完成工事総利益率」の向上に直接効果がある施策になります。

<配当>
「持ち合い株が多く、株価水準が上がればROEの分母となる自己資本が含み益で膨らんでしまう。ROEの目標は積極的には掲げにくい。まずは業界内で相対的に高い収益性を上げる企業になりたい」

新中計では、業界トップの年8円配当を上回ることを目標にしています。ただし、一株当たり配当や配当性向は、あくまで、高い収益性の結果、株主に報いることができるという真っ当な考え方により、株主還元のためには、先立つ収益性の向上、という姿勢は筆者的には高評価です。結果指標(KGI)である「ROE」を目標変数にしてしまうと、分子(収益性)がよろしくないと、分母(持ち合い株式の売却や有利子負債による置換)の操作に陥ってしまいます。

ゼネコンは、他業種に比べて自己資本比率が低く、「D/Eレシオ」の改善が当座の財務目標になったりします。今回の大成建設の新中計でも、有利子負債のFY17目標額は、3,000億円未満と、現状以下の目標が示されましたが、D/Eレシオについては、FY14見込値:0.6倍までしか提示がありませんでした。

<給与>
「給与でもトップを目指すのは技術系社員の採用強化のためだ。収益が見込める案件でも人員を手配できなければ、工期の遅れや施工ミスなどにつながりかねない。『職長』と呼ぶ現場リーダーへの日当上積みや協力会社向けの技術研修も始めて人材を取り込む」

東京五輪後も見据え、足元の人手不足だけでなく、海外事業の成長(トルコでの原発建設など)を見据えた従業員満足度の向上と海外事業人材の育成を企図されています。


■ 猫も杓子も「ROE」=8% でいいのか?

実は、大成建設は、「有利子負債(3165億円) < 現預金(3555億円)」なので、ネットで考えると、実質無借金経営となっています。
(数字は、FY13末)

一方で、新聞記事にも言及があった持ち合い株式については、投資有価証券が2659億円保有しているうち、2119億円が該当するので、構成比は、約8割。昨今の「包括利益」による持ち合い株式の時価評価(公正価値評価)次第では、純資産額が膨らんでしまい、ROEを見かけ上、悪くしてしまいます。

個別銘柄への言及はここでは避けますが、本業に対するパートナー企業の名もちらほらあります。こういう緩やかな資本提携が本業の業績にいくらか貢献しているのではないか、とも思う所もあり、よくある財務管理や会計の教科書に書いてある「IFRSなどの公正価値会計の時代には、株式の持ち合いを解消すべき。株主への説明責任が付かない」ということが、必ずしも真理とは思っていません。

「『ROE』重視の経営をしない企業は、経営管理が周回遅れである」との言説を見聞きしますが、実は、欧米の進んでいると思われる経営管理手法が不適切で、周回遅れの分、痛い目に会わなくて済んだ、という話もあります。

まあ、筆者的には、はやくROEブームが過ぎ去って、現在周回遅れとされている企業に対する評価の見直しがなされることを期待してやみません。
(決して、大成建設さんが周回遅れと言っているではないので、念のため)

P.S.
大成建設さんの現場で働くすばらしいプロフェッショナルたちの活躍を描いたNHKの放送がありました。思い出したので、ここで紹介しておきます。
(利益にはまだつながっていないみたいですが、技術やこれからの市場を見据えた戦略としては、大変素晴らしいものがあると思います)

⇒「技術開発者・市原英樹 世界初のビル解体、仲間と共に乗り越えろ
 (2015年2月9日 OA NHK プロフェッショナル 仕事の流儀)


テーマ : 会計・税務
ジャンル : ファイナンス

三菱電、資本効率を事業ごとに管理 今期 資金投入にメリハリ

■ おまじないとして「ROE」に言及していますが、いったん無視で

経営管理会計トピック
三菱電機が、従来の「売上高営業利益率(ROS)」などで管理してきた事業部別の収益性を「三菱電機版ROIC」なるもので管理する! という新聞記事がありました。そして記事は次の一文で締められています。

「増配とあわせ新指標で資金を有効に活用し、継続的なROE改善を目指す。」

まあ、ROEうんぬんはある種の「おまじない」としていったん脇に置いておくとして、今回は、「三菱電機版ROIC」の計算式への理解を深めるとともに、三菱電機のねらいを、業績管理会計の格好のお手本として、ちと解説してみたいと思います。

2015/3/25|日本経済新聞|朝刊 三菱電、資本効率を事業ごとに管理 今期 資金投入にメリハリ

(注)日本経済新聞の記事へ直接リンクを貼ることは同社が禁じています。お手数ですが、一旦上記リンクで同社TOPページに飛んでいただき、上記リード文を検索すればお目当ての記事までたどり着くことができます

「三菱電機は2015年3月期から、事業部門ごとに資本の効率性を管理する仕組みを導入する。各部門の事業活動に必要なお金を節約しつつ、効率的に稼ぐことを目標とする新指標を使う。今期は2000億円規模の戦略投資を検討するなど攻めの姿勢に転じている。資金の有効活用を促す新指標で投資にメリハリを付け、今期見通しで12%程度の自己資本利益率(ROE)引き上げを目指す。」


■ まず教科書的なROICとは

「ROIC:Return On Invested Capital(投下資本利益率)」の教科書的な計算式は、

= NOPAT ÷ 投下資本 × 100
= 営業利益 × (1 - 実効税率) ÷ (有利子負債 + 純資産) × 100

となります。

どんな事業や企業に投資するべきか、投資収益性から投資判断を必要とする人が使う指標です。

分子に支払利息の影響を受けない営業利益を使っていること、かつ税金を考慮していること、分母に有利子負債と純資産の合計額を使っていることから、

① キャッシュベースのリターンを想定している
② 資金調達構成の影響を受けない

投資収益性を測る指標となります。

経営者や、企業全体を投資対象と考える投資家(広く一般的に事業会社にお金を提供して、見返りとしてキャッシュを望んでいる人たち)は、「投下資本」をB/Sの右側(貸方)で考えます。

経営管理会計トピック_投資家から見た投下資本

一方で、ある一定の事業領域におけるビジネス責任のある立場にある人たち(一般的には事業部長とかカンパニー長など)は、どれだけの資産を動員して自分が責任を有するビジネスの投資収益性を高めるか、という視点から、「投下資本(この場合は投下資産と呼ぶべきですが)」をB/Sの左側(借方)で考えます。

経営管理会計トピック_経営者から見た投下資本

今回の、「三菱電機版ROIC」は、各事業部長に対して、自分の事業における投資収益性を管理させる意図から、B/Sの左側アプローチで「投下資本」を把握することを選択しています。


■ 次に三菱電機版「ROIC」の構造をひも解きます

では、計算式から。

三菱電機版ROIC = 営業利益 ÷ 投下資本 × 100
                 = 営業利益 ÷ (運転資本 + 固定資産) × 100

事業部長に管理させるので、いったん実効税率は忘れさせます。厳密にいうと、三菱電機は当然グローバル企業なので、各事業部が日本以外でも事業活動をしているため、税金とか、キャッシュベースの収益とか言い出すと、世界各国の税率と、その国・地域ごとの営業利益を個別に管理しなくてはいけなくなります。それは事業部長には荷が重いということです。

そして、投下資本は、調達側で考えるのではなく、事業部長の視点に立って、資産として事業にどれだけ使用するか、運用側で考えさせることになっています。

では、図解したものを下記にお示しします。

経営管理会計トピック_三菱電機版ROIC

P/LとB/Sの世界だけで、事業部長に対して、投資収益性を管理させようとしています。まあ、極めて実務的で、成功確率はその方が高いと思われます。

事業部長が、自身の事業における投資収益性をコントロールする際にさわれるコントロールレバーは次の7つです。

P/Lからは、
① 売上高(↑)
② 売上原価(↓)
③ 販管費(↓)

B/Sからは、
④ 売上債権(↓)
⑤ 在庫(↓)
⑥ 買入債務(↑)
⑦ 固定資産(↓)

これが、従来の「売上高営業利益率(ROS)」だと、上記の①から③までが事業部長の責任範囲でした。これにB/Sからの④から⑦が加わったということになります。

責任と権利は「ウラハラ」の関係にあります。事業部長に「運転資本」の管理をさせるということは、お得意様からの売掛金の回収期間の短縮、サプライヤーへの買掛金の支払い期間の延期を、事業部長がコントロールできる、という前提が無いと、成立しません。

資金管理子会社が、CMS(Cash Management System)を運用していて、ネッティングとかプーリングとか、通貨(ドルとかユーロとか)ごとに集中管理していたり、汎用部材を「グローバル調達センター」が、集中購買管理していたりしていたら、その部署と事業部長の権限バランスをとるための制度設計が難しそうですね。


■ 最後に「ROIC」が改善すると「ROE」が上昇するの巻

別段、「風が吹けば桶屋が儲かる」ではありませんが、両者には、新聞記事から引用すると、次のような関係性がある、と一般的に考えられています。

1)監視強化
「新指標では事業に必要なお金をどう節約するかをより細かくチェックする。」

2)適切な資金配分
「ROICが改善している部門には優先的に資金を投入するなどメリハリを付け、投資を収益拡大に結びつけやすくする。」

1)は、可視化あるところに管理アリ、なので、ふーん、そういうものか、とまあ納得できます。でも2)は、より儲かっているところに資金を投下して、儲からないところからはお金を引き揚げる、と言っています。

うーーん? 2)はどうなんでしょう? そんな機械的な投資判断を三菱電機ほどのビックネームがするはずがありません。ある種のPPM理論(事業の目利き)をもってして、事業内容から資金配分を考えるはずです。

この辺のPPM理論については、次の投稿をご参考下さい。
⇒「事業ポートフォリオ管理(3) - ポートフォリオ組み換え方法

2)はともかく、1)の効果から、社内でムダなお金の使い方をしなくなります(本当かな?)。そうすると、余剰資金が生まれます。となれば、記事によると、

「だが自己資本比率は足元で46%と高く、好業績でも自己資本がさらに膨む恐れもあった。日本企業のお金の使い道に対する投資家の目が一段と厳しくなる中、増配とあわせ新指標で資金を有効に活用し、継続的なROE改善を目指す。」

はぁー、増配(社外流出)による純資産の圧縮 → ROEの分母が小さくなる → ROEが改善する。。。 またその論法ですか。(-_-)

ROE改善で締めてくれるのではなく、2)のより儲かっているビジネスの成長に集中的に資金投下して、分子を大きくして、企業の利益と資金(内部留保)を増やす。その余技として、ある一定幅の増配なら許容できないこともないこともないのですが。。。

好業績の結果、内部留保が厚くなり、自己資本比率が高くなって何が悪いんですか? 次のビジネスチャンスに回すお金が増えるじゃないですか。保有する現金等価物が増えれば、放っておいてもその分は資産価値面から株価は上がるじゃないですか。倒産リスクが低くなり、よりハイリスク・ハイリターンのビジネス(一部言い換えると、より長期的な取り組みを必要とするビジネス)にも取り組めるようになるじゃないですか!!!

キャッシュ(配当)を欲しがる株式の短期保有者は無視して、本質的な企業価値増進に向けた経営をしてほしいものです。

(決して、三菱電機はそうでないと言っているわけではないですよ。最近の「ROE」を信奉する一部の人に向けて言っているだけですよ!あくまで一般論です。)



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(一目均衡)自社株買いの功罪 編集委員 北沢千秋

■ ROEブームの渦中でも本質を分かっている記者はいらっしゃいます!!

経営管理会計トピック
「ROE」重視の風潮が2014年の株式市場を席巻しました。
それを後追いするように、このような新聞記事が出ていました。

2015/3/22|日本経済新聞|朝刊 (羅針盤)「ROE革命相場」始まる

(注)日本経済新聞の記事へ直接リンクを貼ることは同社が禁じています。お手数ですが、一旦上記リンクで同社TOPページに飛んでいただき、上記リード文を検索すればお目当ての記事までたどり着くことができます

「企業の稼ぐ力の復活を柱とする政府の成長戦略をきっかけに、今回ようやく日本の経営者は自らROEに向き合い始めた。そうした変化を投資家も歓迎し株価が上がる。資本効率を高める動きがもっと広がれば、「ROE革命相場」は長続きするはずだ。」
(編集委員 三反園哲治)

論旨は、海外投資家を東京市場にもっと呼び込むために、東証上場企業の平均で8%台と低い(?)ROEを、米国企業並みに15%前後に引き上げれば、中長期マネーも惹きつけられる。1部上場の株主配分(配当や自社株買い)は15年3月期予想で、13兆4000億円と過去最高を更新し、なかでも自社株買いをすれば市場に流通する株式数を減らすことで、需給が改善し、株高にもつながる、とのことです。

記事を読んで正直ガッカリしました。ほとんどの株価は、足元の配当や自己株取得(その結果もたらされるROEの分母減らしによるROEの見かけ上の改善)で値付けられているのはなくて、将来キャッシュフローの現在価値で適正値が割り出されます。と筆者は信じているからです。

だからこそ、中長期の企業の事業計画や、R&D、コンペチタ-との財・サービス市場における競争状況から、将来の企業業績を予測することが大事で、それ以外の要因は短期的な価格変動(はっきり言って株価形成のノイズ!!!)にすぎません。それが、たとえ経営者による自社株買いの演出であっても。

同じ日刊紙でこういう記事も過去に掲載していますよね。
⇒「(スクランブル)高ROE株、買い疲れ 投資家は改善度に注目

ということで、署名記事をあからさまに批判したくなった2日後に、胸をすくような、これまた別の署名記事を同紙で目にしました。\(^^)/

2015/3/24|日本経済新聞|朝刊 (一目均衡)自社株買いの功罪


「『できれば自社株買いはやめてほしい……』。農林中金バリューインベストメンツ(NVIC)の奥野一成・運用担当執行役員は複雑な表情だ。
 話題の主はファナック。株主還元と投資家向け広報に後ろ向きな企業の代名詞といわれてきた同社が、増配か自社株買いを検討すると伝えられ、市場はその「変節」を歓迎した。
 「日本のバークシャー・ハザウェイ」を目指して農林中央金庫からスピンオフしたNVICは、運用するファンドでファナック株を長期保有中。それでも株価急騰を喜べないのは、『株主が還元でお金を受け取るよりも、会社に預けていた方が高い利回りを得られる』と考えるからだ。」
(編集委員 北沢千秋)


■ 北沢氏のロジックを追っかけます!

北沢氏の論旨は次の通りです。

短期マネーは自社株買いをはやすが、長期投資家の目線は冷ややかである。なぜなら、自社株買いが本当に賢い選択かは、現在の株価水準との見合いだからである。企業が、貸借対照表(B/S)の借方(左側)にある現預金を使って、貸方(右側)の純資産を買い戻すのが自社株買い。「PBR」が1倍を下回っている株価水準の場合、企業が持っている現預金の再投資先として、自社株を選択するのは、経済合理的だからである。

ここでちょっと解説。

※ PBR: Price Book-value Ratio (株価純資産倍率) = 株価 ÷ 1株当たり純資産

筆者は、PBR = 時価総額 ÷ 純資産(B/S上の簿価) の計算式の方が好みですが。

この指標が、「1」を下回っているということは、純資産のB/S上の簿価が、株式市場で値段が付けられている時価(1株の値段が株価。純資産全体の評価額は時価総額となる)より大きい(高い)ということ。

「純資産の簿価 > 時価総額」 または 「1株当たり純資産 > 株価」 

という不等式が成立しているということ。

これって、相対的に割安の値段(株価)で、その会社の保有資産が買えるということを意味しています。ただし、企業継続(ゴーイングコンサーン)に疑義がある、つまり倒産のリスクがあったりすると、それが株価に織り込まれて「1」を割り込むことがありますが、それは、マスコミ報道や『有価証券報告書』などを注視していれば分かること。

それから、業種別・規模別にもPBRには一定のレンジがあるので、気になる方は東証の下記リンクからご自身で確認してみてください。

規模別・業種別PER・PBR(連結・単体)一覧 (←月別データ)
 (2015年2月は、原油安と低金利から、石油関連、銀行業などが「1」倍割れ)

簡単に言うと、投資家が10%のリターンを期待している時、100円で110円の価値のあるモノをいったん買って即時110円で転売すれば、10%のリターンが手元に残ります。つまり、株価:100円で、110円の価値がある会社の純資産が買うことがそれと同義なのです。

次は、視点を経営者に移します。経営者が、新規ビジネスへの投資の利回りが、5%と見込んでいて、同時に、自社株のPBRが「0.90909....」だったら? 余裕資金が手元にあって、新規ビジネスへの投資か、自社株買いかしか選択肢が無い場合、自社株買いをすれば、10%のリターンが見込めます。同時に、「ROE」も改善しますしね。

さらに、有利子負債の借入利息が、10%より低く3%だったら? 手元資金が無くても、3%でお金を借りて、自社株買いをすれば、その瞬間で7%のサヤをとることができます。
(実際には、タックスシールドが効くので、もっとサヤは大きくなりますけどね、、、)
こうして、純資産を有利子負債に置き換えるのは、「リキャップCB」といって、これも2014年に結構、流行りましたよね。

リキャップCBについては下記投稿をご参考に。
⇒「洋インキHDの今期ROE8%に改善 最高水準に迫る


■ じゃあ、「PBR」が1倍割れだったら、自社株買いは定石(鉄板)なの?

そうは問屋が卸しません。

足元の「PBR」が「0.90909....」なのと同時に、10%のリターンが見込める新規ビジネスへの投資案件が併存していたら??? 筆者なら、迷わず新規ビジネスへの投資案件を選択します。どっちも利益率は10%で同じですが。そして逆に、ROEは改善しませんが。

どうしてだと思います?

それは、新規ビジネスで10%のリターンを得た方が、企業が成長するからです。企業が成長し、利益率が同じなら、次のビジネスチャンスで投資に回せるお金、株主に配当として分配できるお金、そう、絶対額としての利益(資金、内部留保ともいえる)が増えるからです。

この辺の理屈は、北沢氏の記事にも同様の記述があります。

「NVICの奥野氏は「自社株買いや増配の要求は所詮、限られた利益のパイをどう切り分けるかの議論」と主張する。それよりも望むのはパイの拡大で、持続的にパイを大きくできる企業が投資対象だ。
 一例が、やはり長期保有する信越化学工業という。同社の金川千尋会長は「ROEを高めるために最も重要なのは利益の絶対額を増やすこと」が持論。ROEが高くても利益の額が小さければ、成長の原動力となる機動的な大型投資ができないからだ。」

真っ当な経営者ならば、新規ビジネスに投資して、企業を成長させて、分配可能利益と次のビジネスチャンスへ回す内部留保の拡大を貪欲に追求するものでしょう。そこで、「自社株買い」を選択しようものなら、自ら事業拡大のための力量は持ち合わせておりません、と、経営者失格との烙印を自身に押すことになるのです。

それにしても、新聞社というのは、さすが言論の自由を尊重する本家本元です。「ROE」や「自社株買い」に対して、異なる見解を持つ編集委員が、異なる論旨の記事を自由に書いていいことになっているのですね。いやあ、日本国憲法第21条は、その情報を受け取る側には、取捨選択の眼力を養うことを強制しているわけです。権利と義務はまさに裏腹の関係ですね。

まあ、編集委員の署名記事は、こうして批判にさらされて、自然淘汰の力が働いて、最良の署名記事だけが生き残る、、、舌先三寸だけで生活している、筆者のような経営コンサルタントも同じ宿命を背負っているわけで。。。厳しい世界です。お察しします。

だから、筆者も覚悟の上でネットに名前をさらしていますよ! ガチ勝負のつもりですが。。。誰ですか? 「蟷螂之斧」「夜郎自大」「井の中の蛙大海を知らず」と言っているのは?(^^;)


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(スクランブル)海外M&Aブームの罠 価格高騰、収益貢献には時間

■ 海外M&Aが現在ブームだそうです。みんなが買えば値段は上がるのが道理

経営管理会計トピック

足元の企業業績の回復基調から、海外M&Aが活発になっています。一方で買収価格が高騰してきており、きちっと予想リターンが見込めるか、「EBITDA」という財務指標を使って、最近の買収価格は「割高」ではないかとの分析記事がありました。

2015/3/21|日本経済新聞|朝刊 (スクランブル)海外M&Aブームの罠 価格高騰、収益貢献には時間

(注)日本経済新聞の記事へ直接リンクを貼ることは同社が禁じています。お手数ですが、一旦上記リンクで同社TOPページに飛んでいただき、上記リード文を検索すればお目当ての記事までたどり着くことができます

「20日の日経平均株価は約15年ぶりの高値水準を付け、2万円乗せが視野に入ってきた。自社株買いや増配が好感されているが、一方で市場が消化し切れていない材料もある。企業が成長戦略の切り札として打ち出す海外企業のM&A(合併・買収)だ。世界的な株高で買収価格が高騰し、投資額に見合う収益が見込めるか気迷いムードも漂う。」

(↓下図は、2015年3月21日 日本経済新聞(朝刊)記事に添付されていたものを再掲)

経営管理会計トピック_海外企業M&Aの増加_レコフ調べ 
みんなが買えば、需給バランスで値段は上がります。インフレ下では、名目金額も増えます。デフレ下では、モノに投資すると、お金の価値が減少していました。マクロ・ミクロ経済学の初歩の初歩的な現象に過ぎないのですが。。。


■ なぜ「EBITDA」で割高かどうかが分かるのか疑問です

新聞記事では、現在の海外M&Aの買収金額が割高に映っているそうで、少々長くなりますが、その根拠と、関係者の見解を記事の転載にてご紹介します。

「最近のM&Aになると「海外市場の競争の激しさを理解したうえで買収を決めたのか、確証が持てない」と歯切れが悪い。その不安の根っこには「M&Aに高いお金を払いすぎていないか」という思いがある。」

「M&A助言会社GCAサヴィアンが集計した興味深いデータがある。日本企業が海外企業の買収で投じた資金をEBITDA(利払い前・税引き前・償却前利益)で割った倍率を見ると、買収対象が米国企業、欧州企業とも今年は平均で15倍を超えている。」

「一般に10倍未満が適正水準とされることが多い。GCAの名倉英雄氏は『買収価格が高くなっているのは事実だが、いい会社を買えばそれ以上の収益貢献が見込める」と語る。12年に米社を買収した当時は割高といわれながら、北米の空調需要の拡大の追い風を受けて高い成長を続けるダイキン工業が好例だという。』」

(↓下図は、2015年3月21日 日本経済新聞(朝刊)記事に添付されていたものを再掲)

経営管理会計トピック_海外企業M&Aの買収価額の変化_GCAサヴィアンまとめ

先に、筆者の見解から申し上げると、「このような買収金額をEBITDAと比較した際、絶対値としての計算結果からは何の示唆も得られない」というものです。だって、「ダイキンがグッドマン・グローバルを買収した価値は、買収した時点のEBITDAで測っても分からないと自らおっしゃっているでしょ!」


■ 「EBITDA」の生い立ちと使命は終わっていることについて

EBITDA(Earnings Before Interest, Tax, Depreciation and Amortization)の計算式を簡単なもの1パターンだけに絞ってまずご紹介します。

EBITDA = 税引前利益 + 支払利息 + 減価償却費 

そもそも、なぜこのような財務指標が使われ始めたかを説明します。2000年前後のITバブルだった時代、低金利政策を採っていた米国に世界中から資金が集まり、主に米国を拠点とするヘッジファンド(投資ファンド)や投資銀行が世界各国の企業の買収に乗り出そうとしました。

そのころ、IFRS(前身のIASですね)などはまだ認知されていなかった時代で、各国の様々な規制の上で公表された「財務諸表」をいちいち米国会計基準(SEC基準)に修正して、比較していては膨大な労力を必要とし、機動的な(手抜きの)デユーデリの実施が困難になりつつあることに、関係者たちが気付きました。

そこで、世界各国の特殊事情、「金利水準」、「法人税率」、「耐用年数と採用可能な減価償却方法(それも複数ある)」の違いのすべてを一切捨象した「収益性指標」が無いものか、考えました。そして思いついたのです。そんな違いが起こる要因は最初からなかったことにすることに。

こうして生まれた「EBITDA」は、一番「営業キャッシュフロー」に近い利益概念として、ファイナンス分野の専門家も、「DCF法」に代えて企業価値分析を簡易に実施する際のツールとして使い始めました。

「EV / EBITDA 倍率」といって、企業買収資金総額が被買収企業の擬似的な年間営業CFの何年分に相当するか、で買収金額が割高か、割安かを判断するようになったのです。

ちなみに、EV(Enterprise Value):企業価値 = 時価総額 + 有利子負債 - 現預金

これって、設備投資の意思決定指標である手垢のついた「投資回収期間」と同じ発想のものです。そして、現在では、お金の「時間的価値」を考慮していない判断基準ということで、プロの間では見向きもされていない指標なのです。

「タックス・インバージョン」と「OECDの課税ルール強化・共通化」の動き、資金調達市場のグローバル化、IFRS導入による減価償却方法の収斂、等、もはや公表財務諸表でも少なくとも、グローバル企業については十分比較考量できる時代になりました。さらに、「キャッシュフロー計算書」の見方も当時に比べてずいぶん一般的になってきました。

早く、「EBITDA」さんには、財務分析の世界から引退して頂きたいですね。


■ ダメ押しで「EBITDA」のどこがおかしいのか?

「EBITDA」の一番の売りは、本業から生み出される「営業CF」に一番近い概念というものです。ですから、「キャッシュフロー計算書」から「営業CF」を拾って来れば、「EBITDA」はもはや不要です。

「営業CF」は、「EBITDA」が相手をしている「P/L」の世界だけでなく、「運転資金回転率」も考慮したものです。つまり、「棚卸資産」「売上債権」「買入債務」といった「B/S」の住人たちの増減も加味されます。まさか、企業買収を試みて財務分析しているプロの方々は、運転資金と営業CFの関係を知らないわけはないですよね。

もうひとつ、罪なところは、「EBITDA」が偏屈な会計基準の影響を受けない実質的な企業業績(収益性)を示す指標である、と誤解されて紹介されている点です。

法人税も払っていない、多額の有形無形固定資産(時にはのれん)の取得額も考慮されていない、利息も払っていない、そんな「収益性指標」は、何がどれだけ儲かっていると説明できるものなのでしょうか。

この点については、既に米国では「死亡宣告」が出ており、ワールドコムの不正経理事件を受けて、「レギュレーションG」(SEC:2003年)で、会計基準に準拠した利益指標を合わせて表示するように義務付けられています。

つまり、「EBITDA」だけ単独でのさばらせないよ、ということです。翻って日本の関係者の意識と、「EBITDA」の文字が躍る財務分析レポートや投資指南レポートの数々。。。

最後に、「EBITDA」という指標の使い方なのですが、これはあくまで単年度ベースの極めていびつなCF指標。それを分母にして、トレンドグラフ(上掲の折れ線グラフ)にて買収金額との比率を並べても、「ぬえ」のような正体不明の「EBITDA」なる基準値からなる分母が動くので、複数年の比較にはなりません。これは、グラフを使用した分析手法が間違っています。

まあ、投資アドバイザリー企業にもいろいろ事情はあるようですから、揚げ足取りはこの辺で。

ご参考まで、昨年の投稿記事を改めて紹介しておきます。

⇒「新規公開株の横顔 リクルートホールディングス メディア事業が収益源

このIR方針をどう解釈するか、後は読者の方々の賢明なご判断にお任せします。



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(スクランブル)「社員に優しい」は買い コスト増にも経営者自信(2)

■ 人件費増は高業績の「原因」なのかそれとも「結果」なのか(2)

経営管理会計トピック
「前回」に引き続き、人件費を増やした企業の株価が上昇しているという新聞記事へのコメント第2弾です。論点を、次の3つに整理させていただきました。

① 人件費増が株価上昇につながる「シグナル効果」
② バランストスコアカード(BSC)的な業績レバーの操作
③ 結果としての労働分配率の上昇

「今回」は、最後の③について説明いたします。

2015/3/13|日本経済新聞|朝刊 (スクランブル)「社員に優しい」は買い コスト増にも経営者自信

(注)日本経済新聞の記事へ直接リンクを貼ることは同社が禁じています。お手数ですが、一旦上記リンクで同社TOPページに飛んでいただき、上記リード文を検索すればお目当ての記事までたどり着くことができます

「東証1部企業全体でも興味深い傾向が浮かび上がる。3月期決算企業を対象に4~12月期に「人件費・福利厚生費」を増やした171社を対象に、昨年3月最終週に同じ額を投資したとして平均株価をはじくと、12日までに37%上昇と日経平均の29%を上回った。」

(↓下図は、2015年3月13日 日本経済新聞(朝刊)記事に添付されていたものを再掲)

経営管理会計トピック_社員に優しいは買い 

■ 結果としての「労働分配率」の上昇

結構こういう後付けも多いと思うのですが、「会社業績が良くなって、内部留保がずいぶん溜まった。さすれば、日頃、業績改善に努力してくれた従業員の皆の努力に報いよう。」
(労働経済学でいう所の賃金の後払い-事後報酬)

「報酬が先か、利益が先か」。ハムレット的状態ですが、客観的には、その当事者(会社)がどっちを先に優先しているか、数字で確認すれば一目瞭然です。

下表は、「付加価値分析(小林バージョン)」になります。
①「ステークホルダーへの分配」が「利益」に先行しているかどうか
②「労働分配率」が、そのほかのステークホルダーと比較してどれくらい重要視されているか

この2点が分かれば、経営者の経営スタイルと現時点の企業の置かれた状況のかなりの部分が手に取るようにわかります(本当はそのハズなのですが、、、)。

経営管理会計トピック_付加価値分析_労働分配率の検証用

最初に、唐突ながら、この表の決定的にダメなところからお伝えします。それは、「売上原価」または「総製造費用」に含まれている「労務費」が完全に「人件費」として計上されていないところです。筆者のような社外の者が、「売上原価」に含まれる「労務費」を知るには、「製造原価明細書(報告書)-しかも連結バージョン」が外部に開示されている必要があります。

たまに、JFEやキヤノンのように、親会社単体のそれを開示して頂いている企業があるにはあるのですが、残念ながら、生産子会社から受け入れた製品はすべて、「材料費」としてカウントされてしまうので、連結ベースで真の「労務費」が開示されているわけではありません。

細かい所では、「株主資本等変動計算書(S/S)」で、少数株主への配当支払い額が、日本基準ではきっちり記述されていないことも痛いです(米国基準ではきっちり出ていますが)。

IFRS導入によるグローバル企業間の比較可能性の担保の議論も大事ですが、「連結製造原価明細書(C/R)」の強制開示の方が、よっぽど皆が喜ぶと思いますが。。。

ということで、『法人企業統計』からの全企業平均は大丈夫なのですが、『有価証券報告書』から取ってきた8社の人件費は、1社(一休)を除き原則として販管費扱いのものだけです。数字を改ざんするわけにはいかないので、ここでは各社横並びだと同条件で比較可能、ということで大目に見てもらいましょう。

(皆さんが社内で管理会計を実践する場合には、きちんと労務費を取ってください。それでも、生産子会社の製造原価明細書をひも解くのは結構骨が折れるはずですが。。。)

長々と説明してきた前置きはこのくらいにして、本題に入ります。


①「ステークホルダーへの分配」が「利益」に先行しているかどうか

付加価値/売上高の比率が、全産業平均より上回っている企業は、報酬の前払いになっている可能性が高いといえます。ちらほら全社平均を下回っている企業もありますが、上記の「労務費」を勘案する(販管人件費を2倍する - つまり直間比率を1:1と仮定)と、8社とも、
・付加価値/売上高の比率が全社平均を上回る(と思われる)
・労働分配率自体も全社平均を上回っている(と思われる)
といえそうです。


②「労働分配率」が、そのほかのステークホルダーと比較してどれくらい重要視されているか


全社平均と比べて、この8社は、設備(資本)、税金、配当、内部留保(誰にも配分していない)の4つの比率が相対的に高くなっており、支払利息の比率が相対的に低く出ています。全社平均より高い付加価値率の分、従業員以外への配分を厚くしている傾向が見てとれます。

残念ながら、製造原価明細書の労務費の問題により、この切り口の分析はここまでとします。これ以上詳細に見ても、正確性の壁に突き当たってしまいますので。皆さんは、数字の見方だけ、概要をつかんで頂ければと思います。

そこで、多少?の労務費問題には目をつむり、もうひとつ、グラフによる可視化を試みます。

新聞記事の添付表にあった、「人件費・福利厚生費増加率」を横軸に取り、「売上高人件費比率」(「労働分配率」でも代替できますよ)を縦軸に置いた散布図で、8社の比較をしてみましょう。

経営管理会計トピック_労働分配状況_グラフ

8社平均点を境に、散布図を4象限に分類することができます。

・右上:「好循環」
元々、労働分配率が高い所にさらに賃金を上昇させる企業が当てはまります。前回見た「戦略マップ」では、「財務KPI」から、矢印が「学習と成長のKPI」に戻ってきて、循環図になっていたと思いますが、その戻りの部分を体現している企業群がここに分類されます。労働分配率を高めることで、企業業績も高まり、さらに分配原資が増えるという好循環に入っている望ましいサイクルを意味します。

・左上:「安定配分」

既に、高い労働分配率を実現しているため、足元では急いで好条件をさらに改善する必要性はない企業群が当てはまります。ここに分類される場合、従業員には、将来の企業業績のさらなる向上が実現したら、従業員への分配も高める約束を経営者と行うことで、従業員のやる気を刺激することができます。いわゆる「インセンティブ型報酬体系」で従業員をモチベートするのです。

・右下:「配分強化」
ここに分類されている企業群は、報酬の前払い型です。先にニンジンを与えて、従業員のやる気を出させることができる原資がまだある場合に取り得る方法です。ここに分類される企業は、「前回」言及したように、「シグナル効果」の視点から、労働分配率を高めることが、経営者の将来の企業業績の向上に対する期待確率が高いかも、と予想することができます。あくまで、いろいろある「シグナル効果」の中のひとつとして、「労働分配率」の上昇がその見極めとなる条件がそろっている企業群ということです。

・左下:「設備重視」
「資本集約的」なビジネスモデルを採用し、あまり「労働分配率」に目くばせしなくても上手く経営ができる企業が分類されることが多い所です。たまたま、製造業2社とテーマパーク運営会社が分類されていますが、製造原価明細書(報告書)の「労務費」がカウントされていないことを割り引いてから見てください。それでも、他社に比べて、ここに寄せられてしまうということは、相対的に人的投資より、資本的投資の方に利益の源泉がある、と認められる企業かもしれませんね。

必ずしも、「右上」の会社の経営が巧妙で、「左下」の会社の業績が悪い、と言いたいわけではありません。その会社が直面している市場特性に依存しますので、必ず競合同士で比較されることをお勧めします。


それにしても、「『社員に優しい』企業の株は買い」というフレーズ、意図した高労働分配率に誘導した企業には、「シグナル効果」を考慮して当てはまりそうですが、結果として高い労働分配率となっている企業は、別の視点から買い材料を見つけた方が良いようです。

いやあ、記者というものは、うまい言い回しを思いつくものですね。皆さんはキャッチフレーズだけに振り回されること無いよう、ちゃんと数字を読む力を身に付けてくださいませ。



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(スクランブル)「社員に優しい」は買い コスト増にも経営者自信(1)

■ 人件費増は高業績の「原因」なのかそれとも「結果」なのか

経営管理会計トピック
アベノミクス的には、企業業績が好転して、労働賃金を上げることによって購買力を大きく回復させ、さらに景気改善への正のスパイラルへ持っていこうと当局が必死な中、似たような循環論が株式市場をウオッチする新聞記事にも登場していました。

今回は、「人件費をUP」させた企業の株は買いか? そのロジックを検証してみます。
(何度もお断りしていますが、推奨株の話はしませんよ。もしそんないい話があれば、黙って自分だけ買って人知れず儲けます)(^^;)

2015/3/13|日本経済新聞|朝刊 (スクランブル)「社員に優しい」は買い コスト増にも経営者自信

(注)日本経済新聞の記事へ直接リンクを貼ることは同社が禁じています。お手数ですが、一旦上記リンクで同社TOPページに飛んでいただき、上記リード文を検索すればお目当ての記事までたどり着くことができます

「日経平均株価が15年ぶりの高値を更新した株式市場で、賃金や福利厚生費を増やすといった「社員に優しい企業」が注目されている。コストを増やしても成長できるという経営者の自信の表れとしてとらえられているためだ。社員の懐が温かくなれば消費の拡大に向かい、経済全体が好循環へ向かうだけに、息の長い投資テーマになりそうだ。」

(↓下図は、2015年3月13日 日本経済新聞(朝刊)記事に添付されていたものを転載)

経営管理会計トピック_社員に優しいは買い


■ 個別企業の人件費への対応に言及していますが

新聞記事から、各社の対応をかいつまんで記述すると、

1)一休
「稼いだ利益を社員に還元して、将来の好業績を目指し、社員の結束力を高める」

2)リンガーハット
「450人の全社員を対象にハワイで経営説明会を開催。渡航・宿泊費用はすべて会社負担。外食産業では人材不足が深刻で、福利厚生の充実で人材の流出を防ぐ」

という感じで、従業員ロイヤリティを高めるための施策という整理になっています。

一方で、新聞記事では、

「人件費の増加は企業にとっては固定費の上昇につながるのに、買われるのはなぜか。大和住銀投信投資顧問の門司総一郎氏は「コスト増以上に企業経営者が将来に自信があることを前向きに評価できる」と話す。」

という見解も示されています。

これらについて、
① 人件費増が株価上昇につながる「シグナル効果」
② バランストスコアカード(BSC)的な業績レバーの操作
③ 結果としての労働分配率の上昇

という整理でお話したいと思います。


■ 「シグナル効果」が株価上昇へつながる波及経路

まず、簡単に言うと、「企業業績が向上」→「株価上昇期待」→「現物株の買い」→「株価上昇」、という自己実現的な状態が発生するのはごく当たり前に観察されることです。

ここで問題なのは、「企業業績が向上したのは周知の事実」→「すでに株価に好業績が織り込まれている」→「今から現物株を買っても、さやは取れない」ということです。

とすれば、誰よりも早く企業業績が向上することを検知すればよい、ということになります。誰かを出し抜く。「効率的市場仮説」はやんわりと成立しているという見解からの見方です。この場合、経営者の採った行動から将来の企業業績の向上を察知しようとします。

その際に、よく引き合いに出されるのが、次の2つです。

① 負債による資金調達
② 将来の固定費増加を伴う施策の実施
      (新規の設備投資、M&Aによる企業買収、今回のような人件費増など)

これらは、ある1点で共通しています。それは、将来の企業業績の向上(好転)が、倒産リスク(有利子負債のデフォルトリスク)やキャッシュアウトフローの増大というプレッシャーより、効果が大きいと経営者が判断している示唆を与えているところです。経営者は、「情報の非対称性」から、外部のステークホルダーより自社の将来業績に関する情報をより知っている、という前提に基づく仮説です。


■ 「バランストスコアカード」的な業績管理指標(KPI)の見方

バランストスコアカード(BSC)の代表的ツールに「戦略マップ」というものがあり、その企業で管理すべきKPIを、可視的にカテゴライズしてくれる便利なものがあります。

経営管理会計トピック_BSCの戦略マップの見方  

このKPIの連鎖は、2次元で理解することができます。

「学習と成長の視点」にカテゴライズされるKPIを向上(好転)させることにまず着手します。そうすると、「内部プロセスの視点」「顧客の視点」に属するKPIを順々に改善していって、最終的に「財務の視点」にカテゴライズされている「利益」「売上高」「キャッシュフロー」「EP」「企業価値」等といった財務的KPIを好ましい水準に高めてくれます。

つまり、時間軸的には、「先行指標」として、「学習と成長の視点」に属するKPIが存在し、「遅行指標」として、「財務の視点」に属するKPI(往々にして「ターゲット」「目標」とされる財務結果を表すKPI)との間には、改善に要するタイムラグがあるというものです。

さらに、因果関係的には、「学習と成長の視点」に属するKPIが良くならないと、結果としての「財務の視点」に属するKPIが良くならない、という条件設定がなされていることです。

「利益を上げたければ、まず従業員の給料を上げましょう!」 → モチベーション上昇
「景気を良くしたければ、まず労働者の賃金を上げましょう!」 → 購買力の上昇


■ 本日のまとめ

1. 「人件費UP」は、「将来(または現在)の企業業績の向上」を予見している経営者の見解を示している可能性が高い
2. 「将来の企業業績の向上」は、「株価の上昇」を見込む有力な判断材料のひとつになり得る
3. 手厚い従業員への報酬は、「従業員満足度」を上げる
4. 高い「従業員満足度」は、BSC的なKPI連鎖の法則から、将来の企業業績の向上をもたらす必要条件となる

おっと、いきなり「まとめ」に入りすみません。
「③ 結果としての労働分配率の上昇」については、紙面の都合上、次に回させていただきます。
m(_ _)m



テーマ : 会計・税務
ジャンル : ファイナンス

パナソニック、資本コスト管理体制を事業部別に 来月から 中長期の成長に備え(3)

■ CCMの進化は事業部ごとの期待収益率の設定から

経営管理会計トピック
今回はパナソニックのCCMについての説明の最終回となります。「前々回」がCCMの概要、「前回」がCCMの計算方式を説明しました。「今回」は、43ある事業部ごとに異なる期待収益率(資本コスト)をどうやって設定するのか、そして、43事業部にどのように事業資金を配分するのか、極々基本的なファイナンス理論だけを使って簡略的説明を試みます。

それでは、新聞記事の紹介から。

2015/3/11|日本経済新聞|朝刊
パナソニック、資本コスト管理体制を事業部別に 来月から 中長期の成長に備え

(注)日本経済新聞の記事へ直接リンクを貼ることは同社が禁じています。お手数ですが、一旦上記リンクで同社TOPページに飛んでいただき、上記リード文を検索すればお目当ての記事までたどり着くことができます

「これまで期待収益率は全社一律で8.4%としていた。これを9%に引き上げるとともに、4月から43ある事業部ごとにレートを変える。為替や国内外の景気変動、設備投資などの要素を勘案して事業ごとにリスクを見極め、約4~16%の間で設定する。海外比率が高く内外の景気動向によって利益の振れ幅が大きいファクトリーオートメーション(FA)事業や電子部品事業は10%を上回る高い収益率を見込む半面、内需向けが中心で比較的安定した収益が見込める住宅関連事業などは低めに設定する。」


■ 「ポートフォリオ理論」の基礎を確認する

パナソニックが、資本コストを基準に各事業部の業績管理を行うとするCCM(キャピタル・コスト・マネジメント)の計算式は下記の通りです。

CCM = 事業利益 - (投下資産 × 期待収益率)

上式の「期待収益率」、どうやって4~16%のレンジで事業部ごとに設定すればよいのでしょうか。おそらくですが、もう手垢のついている手法なのですが、金融資産のポートフォリオを作成する理論があるので、こちらを拝借しているのだと思います。今回はこの理論の概要をご説明します。

① ビジネスシナリオの作成→期待収益率の算出

まず、事業部ごとに、事業の収益性を左右する要因を洗い出します。下記の例では、「為替変動」としました。つぎに、その為替変動の取りえるパターンとその発生確率を決定します。為替変動パターンごとに、事業収益性を仮定します。最後に、発生確率と予想収益率を掛け合わした期待値を求めます。

経営管理会計トピック_パナソニック_CCM_期待収益率の評価

期待値 = Σ(発生確率 × 予想収益率) なので、

事業部Aの期待収益率 = 50%×5%+20%×7.5%+30%×20% = 10%

上表を確認してください。事業部Aと事業部Bの収益性の相違をしっかり見てみましょう。

<同じところ>

1) 共により円安になった場合に利益が増えるビジネスモデルになっている
2) 期待値として計算した結果の「期待収益率」が共に10%となっている

<異なるところ>
3) 円高時と円安時の収益性の変動幅が異なる

計算結果から、確率論的な期待収益率は、同率となりましたが、取り得べき変動幅に差があります。直観的に、事業部Aは、事業部Bに比べて、良い時は良いが悪い時は悪い、リスクがより大きい感じがします。この場合の「リスク」とは、変動幅が大きいことを意味しています。このことを「ボラティリティ」が大きいとも表現します。

この何となく感じているリスク感を何とか、統計量で表すことはできないものでしょうか。

② リスクの評価

上記で計算された、期待収益率のばらつき具合を、統計値で表現してみましょう。

経営管理会計トピック_パナソニック_CCM_リスクの評価

「偏差」 = 予想収益率 - 期待収益率
「分散」 = Σ(偏差2×発生確率)
「標準偏差」 = √分散

リスク(ばらつきの大きさ)は、「標準偏差」で示すことができます。この標準偏差は元の数字と同じ単位で考えることができるので、事業部Aの標準偏差が、6.61%ということは、

円安 < 現状維持 < 円高
3.39% < 期待収益率(A) < 16.61%

と考えることができます。

事業部Bの、 7.61% < 期待収益率(B) < 12.39% に比べて、上限下限ともに大きくなっていますので、事業部Aはリスク選好的、事業部Bはリスク回避的な人向けの事業といえます。

おそらく、投資家から見ても、期待値が同じでも、リスクが高ければ、より高い期待収益率を求めてしまう、つまり、事業部Aの方が事業部Bより、ハードルレートはより高く設定される傾向があるといえます。

では、どこまで高く設定するか? 論理的には、16.61%まで高く設定しても、達成できる可能性はあります。実務的には、10.0% から 16.61% の間ぐらいに収まるでしょう。


■ 次は、事業部間の資金配分の問題

前章にて、各事業に対するハードルレート設定の判断材料として、「期待値」とか「標準偏差(リスク)」について説明しました。次は、各事業部にどれくらいの資金を投入するか、言い換えると、CCMにて、投下資産の保有規模の許容範囲をどうやって決定するか、それが問題です。

グラフ作図の面白さの都合から、今度は、事業部Xと事業部Yの設例を用います。

経営管理会計トピック_パナソニック_CCM_事業部Xと事業部Yの評価

この設例での事業部Xと事業部Yの組み合わせ方の妙が、前章の事業部Aと事業部Bの組み合わせより、より興味深くなっている点にお気づきでしょうか?

事業部Xは、
① 円高の方が予想収益率が高くなる
② 期待収益率が相対的に高い
③ ただし、ばらつき(リスク)(ボラティリティ)も相対的に高い

事業部Yは、
① 円安の方が予想収益率が高くなる
② 期待収益率が相対的に低い
③ ただし、ばらつき(リスク)(ボラティリティ)も相対的に低い

こういう性質が真逆の事業をなるべく多く組み合わせることで、事業ポートフォリオ全体の変動リスクを小さくでき、リターンを大きくできる可能性が高くなります。

では、事業部Xと事業部Yへの資金配分の組み合わせ(構成比)を見てみましょう。

経営管理会計トピック_パナソニック_CCM_事業部Xと事業部Yのポートフォリオ_数表

グラフ表示に到達する前に、新しい統計量の計算式を2つ確認しておきます。

「共分散」 = Σ(発生確率×事業部Xの偏差×事業部Yの偏差)

「事業の各組み合わせの分散」(事業部Xと事業部Yの各構成比率のひとつひとつの分散)
 = 事業部Xの構成比2×事業部Xの分散+事業部Yの構成比2×事業部Yの分散
   +共分散×事業部Xの構成比×事業部Yの構成比

「共分散」の統計量としての見方を補足します。この値が大きいほど、事業部Xと事業部Yの相関が高い(一方が大きくなると、もう一方も大きくなる)ことを意味し、符号がマイナスの場合は、収益率の増減の方向が逆(設例では為替変動に対して逆の動きをすることと同じ)であることを意味します。

経営管理会計トピック_パナソニック_CCM_事業部Xと事業部Yのポートフォリオ_グラフ  

では、グラフの読み方を説明します。

縦軸が、事業部Xと事業部Yを組み合わせた期待収益率で、横軸がその時々のばらつきの大きさを示しています。青い線上は、リターンとリスクのバランスが統計上は同じであることを意味しています。より高いリターンを得るためには、より高いリスクを許容する必要があります。

具体的には、リターンを13%望めば、リスクは6%を許容しなければならない、そのバランスが、リターンを8.2%望んだ時のリスク許容度:0.21%と同価値であるということ意味しています。

事業部Xに31%、事業部Yに69%の資金を配分した時が「最小分散ポートフォリオ」。筆者みたいなヘタレが一番喜ぶ組み合わせになります。

最後に、筆者が、パナソニックの管理会計の担当者を尊敬するのは、こうしたポートフォリオ選択の統計解析を、43事業部分やって、最適資本配分を意思決定しようとする努力に対してです。以上のたった2つの事業部の組み合わせだけでも、統計分析が大変なのに、これを、43事業部の組み合わせでやるんですよね。

ひたすら、頭が下がる思いです。



テーマ : 会計・税務
ジャンル : ファイナンス

パナソニック、資本コスト管理体制を事業部別に 来月から 中長期の成長に備え(2)

■ CCMのEPからの「守破離」具合

経営管理会計トピック
パナソニックが、資本コストを基準に各事業部の業績管理を行うとするCCM(キャピタル・コスト・マネジメント)の解説の続編になります。

CCM = 事業利益 - (投下資産 × 期待収益率)

※ 期待収益率:その事業に投下された資産が稼がなくてはいけないとする利益率
  → 投資家から見れば、「資本コスト」と同義

前回」は、CCMの基本構造と、基本としているEP(EVA®)の基本概念の解説を行いました。「今回」は、CCMの計算構造として、「事業利益」と「投下資産」の算出方法を社外から見て、どこまで推量できるかに迫りたいと思います。
(関係者の方がこの記事をご覧いただけましたら、コメント寄せて頂くとうれしいです)

それでは、新聞記事の紹介から。

2015/3/11|日本経済新聞|朝刊
パナソニック、資本コスト管理体制を事業部別に 来月から 中長期の成長に備え

(注)日本経済新聞の記事へ直接リンクを貼ることは同社が禁じています。お手数ですが、一旦上記リンクで同社TOPページに飛んでいただき、上記リード文を検索すればお目当ての記事までたどり着くことができます

「パナソニックは13年4月に事業部制を12年ぶりに復活させ、全事業部に貸借対照表を割り当てる「内部資本金制度」を導入した。主にキャッシュフロー(現金収支)と営業利益率で管理してきたが、4月からはCCMを加え、事業部ごとに資本コストを意識した経営を求める。」

「各事業部のCCMは四半期ごとに、設定した目標に対する進捗度を点検する。目標に達していない場合はその要因を分析し、事業部ごとに利益率の向上や資産の圧縮など具体的な改善策を求める。まず全事業部でCCMをプラスにすることを目指し、仮にマイナスになっても直ちに事業撤退はしない。」


■ 「事業利益」の内容を解析する

EP(経済的利益)は、わざわざ「経済的」と断り書きがあるように、「会計的利益」とは違いますよ、という主張が込められた用語です。「会計的利益」は、「実現主義」で認識された「収益」から「発生主義」で認識された「費用」を差し引いて計算されるものです。

IFRSとか、公正価値とか、包括利益概念とか、専門的な話はちょっと脇に置いて頂いて、、、(^^;)

ごく簡単に数式化して表現すると、

EP = (グロスキャッシュフロー) - (資金調達コスト)

となります。グロスキャッシュフローとは、NOPAT+減価償却費のことです。投資家は金融資産として企業価値を評価するので、どうしても、キャッシュベースで損得を考えたくなります。会計的利益は、キャッシュフローとは異なるロジックで計算されるので、ファイナンス理論で構築された企業価値評価フレームワークはキャッシュフローをリターン指標として考えるのが基本となります。

ということで、新聞記事から類推できる範囲で、「事業利益」を解析していきたいと思います。

経営管理会計トピック_パナソニック_CCM_事業利益

上記の表の通り、

事業利益 = 営業利益 + 受取配当金 - 支払利息

で計算されます。

ここから、EP的な企業価値評価フレームワークにいまいち同化できていない点、責任会計上、管理可能な利益概念なのかという疑問点、2つの視点から切り込んでいきたいと思います。

① 会計的利益の中途半端な加工

EP的なリターン指標にするためには、キャッシュフローベースの金額に加工する必要があります。パナソニックの「事業利益」には、当期はその該当額はキャッシュアウトしない「減価償却費」、経過勘定による調整がありますが、キャッシュアウトする「法人税」が考慮されていません。つまり、キャッシュフロー視点からは、EPのリターン指標になりきれていません。おそらく、会計帳簿(P/L)ベースの損益管理の慣習から一気に進化することが、現場知として難しいことから、現場が管理しやすい・理解しやすい項目だけをピックアップしたものと推察しています。


② 管理可能な利益にするための工夫

管理会計の世界で、ある指標を使って業績管理をする場合、その指標の計算に「他力本願」なものがあると、業績管理者の納得感が無くなる、業績管理者が結果に責任を負えなくなる、というデメリットが生じてしまいます。

たとえば、あなたがある事業部の管理責任者として、本部の間接部門の人件費を実際配賦で受け入れた後の利益に対して責任が設定された場合、責任を全うするためにできることは何でしょうか?

1) 自事業部の売上高
2) 自事業部で発生したコスト
3) 間接部門から実際配賦で飛んできたコスト

自分の努力では、上記3)は管理責任外にあるコストであるため、その発生額をコントロールできません。コントロールできない数字には責任は持てないのです。

「事業利益」を構成する3要素それぞれ、管理不可能なものが紛れていないか検証する必要があります。残念ながら、一般的な管理会計の常識からすると、3要素全て、管理不能要素が含まれているように見受けられます。

よくある事業部に数字を分けることに必死になって、そのあとの管理を疎かにする、、、筆者の経験からの自戒の念も込めた心配ですが、その心配が杞憂であることを願うばかりです。


■ 「投下資産」の内容を解析する

新聞記事によりますと、

「全事業部に貸借対照表を割り当てる「内部資本金制度」を導入」

とありますので、現預金、借入金、未払金や前払金といった経過勘定、グローバル本社の保有資産、投資有価証券、利益剰余金、自己株式、、、挙げていけばきりがないのですが、どうやって43もある事業部に連結B/Sの各勘定を割り振るのか、実務経験もある筆者からは気が遠くなる話です。

経営管理会計トピック_パナソニック_CCM_投下資産

そこで、ここからは完全に推測の域を脱していないのですが、「内部資本金制度=社内資本金制度」を導入ということなので、各事業部に割り振ることができないものは、本社にそのまま残しておいて、「社内資本金」「社内現金」「社内借入金」といった、調整勘定で貸借バランスをとりながら、調整勘定の金額自体を上下調節することで、間接的に連結B/Sの事業部への割り付けを実現する方法が現実的かつ実用的かと思います。

B/Sの資産(左側)を各事業部に割り付けて、反対勘定として同額の社内資本金を設定する。その後、期間利益が増減して、社内資本金との貸借バランスが崩れた場合は、その過不足を社内現金・社内借入金で調整する。実は、この方式をとれば、事業部共通資産を無理やり配賦して各事業部に割り付ける必要もありません。資金の調達側、B/Sの右側でもって、各事業部に配分してもいい資金量を設定する。そうすれば、間接的に、共通資産を配賦したのと同様の効果が得られます。

事業利益の際に、支払利息を考慮する必要がありました。パナソニックが起債した社債、または銀行借り入れする際に、必ず43事業部のどの事業にいくら使うか、使途をきっちり明確にしてから、財務制限条項に盛り込んでの借入実務を行っているとは思えないのですが、もし実践されていたらすごいことです。おそらく、社内で社内融資枠の設定をされているか、上記のような社内資本金制度の補完メカニズムとして機能させるか、の方が実務的です。

その際、事業利益計算で考慮される支払利息が社内借入金をベースにして計算されたものであった場合、ただでさえ、資金不足(資本過少)が原因で計上された社内借入金に利息をつけると、さらに資金不足を助長させてしまうので、制度設計上は好ましくありません。

おそらく、事業部傘下の子会社が銀行借り入れなどを実施していて、その分の支払利息を管轄する事業部の勘定につけている、ぐらいのものかもしれません。


ここまで、難癖に近いコメントもあったかもしれませんが、総合的に、事業部ごとに資本コストを設定して、投資収益性を管理することは一筋縄ではいきません。パナソニックの大成功を期待しています。


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