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経営戦略のメタフレームワーク(3)- 資生堂の中長期戦略

■ フレームワークを当てはめてみる

経営戦略(基礎編)
前回」は、「経営戦略自体のフレームワーク」について説明しました。よく経営コンサルタントは、「発言そのものが絵に描いた餅」「フレームワーク論を振りかざすが実際には使えない」という論調で批判の対象になることが多くあります。筆者はせめて、自分の発言には責任を持ちたいと思っているので、ちょうど、資生堂が12/17に、中長期戦略「VISION 2020」を発表されたので、前回説明したフレームワークがどれくらい、実際に使用されているか(逆に、説明したフレームワークの適用度はどれくらいか)を検証してみたいと思います。

2014/12/18付 |日本経済新聞|朝刊
資生堂、ブランド数2割減 中長期戦略、選択と集中 若者狙う 広告費、3年で1000億円追加

(注)日本経済新聞の記事へ直接リンクを貼ることは同社が禁じています。お手数ですが、一旦上記リンクで同社TOPページに飛んでいただき、上記リード文を検索すればお目当ての記事までたどり着くことができます

「資生堂は17日、2020年度までの経営戦略を発表した。国内を中心に今後3年で全体の2割のブランドを廃止する一方、広告宣伝などのマーケティング費用を千億円増やして主力ブランドの販売促進に充てる。4月に外部企業出身者として初めて就任した魚谷雅彦社長が最優先のテーマに打ち出したのは、国内事業の立て直しのためにブランドの選択と集中で若者層を取り込むことだった。」

⇒ 資生堂の中長期戦略「VISION 2020」のプレスリリースはこちら
⇒ 資生堂の中長期戦略「VISION 2020」の発表資料はこちら


■ 資生堂をプロファイリングしてみる

策定された経営戦略の中身を見る前に、「企業プロファイリング」を行って、戦略策定の前提条件は明確にされているでしょうか?

今一度、「プロファイリング」の内容を確認しておきます。

経営戦略(基礎編)_ミッション・バリュー・ビジョン

下記は、資生堂の中長期戦略「VISION 2020」からの抜粋になります。

『ミッション』
「2020年をターゲットに、当社が生活者目線を徹底し、アクティブコンシューマーを中心とするお客さまの期待に応え続ける会社になることを目指します。」

※ アクティブコンシューマー:様々なネットワークで広くつながり、多様な役割を能動的に楽しみ、自身の選択眼で消費を行う生活者

『バリュー』
・研究開発・技術力 →
・安心安全・高品質な製品(の提供)→
・グローバルな事業展開 →
・人材・ロイヤリティ →
・おもてなしの心 →
・歴史ある会社・文化への貢献 →(最初に戻る)

『ビジョン』
≪定性目標≫
「「成長エネルギーが充満した会社」「世界中で話題になる会社」「若者があこがれてやまない会社」「若々しさがみなぎる会社」であると、お客さまや社会に評価される会社になることを目指します。」

≪定量目標≫
・売上高:1兆円超(CAGRを5~7%へ)
・営業利益:1000億円超
・ROE:12%以上
・配当性向:40%

※「CAGR:Compound Average Growth Rate(年平均成長率)」

「ミッション」「バリュー」「ビジョン」は、一通り揃っている感じです。


■ 資生堂の中長期戦略のストーリーをフレームワークに従って追ってみる

まず、経営戦略のメタ・フレームワークを再掲します。

経営戦略(基礎編)_経営戦略のかたち 

1.基本戦略
① 事業ドメイン
今回の中計は、大きく事業ドメインを変えることを想定していないせいでしょうか。化粧品、食品・医薬品、サロン向け商品、レストランなど、個別事業に対する言及がありませんでした。

② ブランド
「国内外の約120ブランドのうち国内を中心に3年で28を廃止。20年度までに主力5ブランドで国内売上高の50%、15のブランドで同90%を稼ぐ体制に」

事業ドメインというより、消費財メーカーですので、ブランド中心でビジネスを考える感じになっています。

③ 組織
15年度にもNY、パリ、上海、シンガポールに地域本社設立。地域ごとに強いブランドを育成→地域とブランドのマトリクス管理を実施

「本社と国内販売会社の一体化:本社と国内販売会社の壁を取り払い、一丸となってお客さまへの価値伝達力を高めるため、販売チャネルごとの、プレステージ、コスメティックス、パーソナルケア、デジタルの4つに再編」


2.事業ポートフォリオ戦略
・小規模不採算ブランドの統廃合(28ブランド)
・お客様セグメンテーションによるブランド再配置
 ① プレステージ事業
 ② コスメティック事業
 ③ パーソナルケア事業
 ④ プロフェッショナル事業
・プロダクトライフサイクルマネジメントの強化
・ブランドM&A

3.事業戦略
① プレステージ事業
  ・4ブランドの集中育成「SHISEIDO」「ベアミネラル」「CPB」「NARS」
  ・日本・米州・欧州市場における安定成長とシェア拡大
  ・免税店販売・中国市場の伸長
② コスメティック事業
  ・中高価格・高付加価値領域(エリクシール)の中国・アジア市場への投入
  ・低価格・若年層向け領域(Za)のブランド育成とEC(Electronic Commerce)への対応
③ パーソナルケア事業
  ・国内のヘア、バス、ボディー、メンズなどのカテゴリー毎のブランド配置の見直し
  ・(商品機能の)ベネフィットの追求や店頭メンテナンスを強化
④ プロフェッショナル事業
  ・コアブランド「資生堂プロフェッショナル」「JOICO」の集中育成
  ・施術者のニーズに応える価値づくりやサロン経営への貢献にも積極的に取り組む


4.機能戦略
① エンジニアリングチェーン戦略
 ・「研究開発:グループの研究員を5割増の1500人に。売上高に占める研究開発費の比率を1.8%から2.5%に。日本でグローバルイノベーションセンターを設立。現地ニーズ取り込みのため、米・欧・中・亜のリサーチセンターを拡大」
 ・「マーケティング:3年で計1000億円上積み。14年度見込みの2000億円から順次拡大。広告宣伝やイベントに振り向け。販促物調達の効率化。マーケティングコストの投資対効果の精査」

② バリューチェーン戦略
 ・「生産:取引先の新規発掘と連携強化。原価企画プロセスの改革」
 ・「物流:需要予測・計画プロセスの見直し。新規サプライヤーの積極活用」
 ・「人事:評価・処遇制度の改訂。人員数のコントロール」
 ・「バックオフィス:地域単位でのシェアードサービス化。IT投資の見直し・最適化(ECへ投資)」
 ・「財務:ブランドへの投資を優先し、配当性向を安定的に40%に。FCFとCCCに注視し、バランスシートとキャッシュフロー管理を強化」


ざっとフレームワークにしたがって、資生堂の中長期戦略「VISION 2020」を見てきましたが、如何でしたでしょうか?
まあ、綺麗にマッピングされていると思います。

今回の目的は、フレームワークの適合度を測るもので、資生堂の中長期戦略の内容の精査は目的としておりません。ここでは論評は差し控えさせて頂きます。外部から経営者を招聘し、かなりお互いにカルチャーショックがあったと推察します。多少、そういった摩擦が無いと企業経営はよくならないと思います。

収益力回復のために、どうブランドを立て直していくのか、引き続き見ていきたいと思います。

ここまで、「経営戦略のメタ・フレームワーク(3)- 資生堂の中長期戦略」の説明をしました。
経営戦略(基礎編)_経営戦略のメタフレームワーク(3)- 資生堂の中長期戦略



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経営戦略のメタフレームワーク(2)- 戦略策定のかたち

■ フレームワークから自由になる

経営戦略(基礎編)
前回」は、「経営戦略」を策定する際の「戦略を策定する」行為の「型」について説明しました。今回は、策定対象となる「戦略」自体のフレームワークについてお話したいと思います。

しつこいようですが、「フレームワーク」とは先人の知恵を借りて、思考スピードを速めるためのツールにすぎないので、「フレームワーク」自体が重くて、扱いづらいなら、別のフレームワークを採用したり、自信作なら我流でやりとおしたりしてもいいのだと思います。

前回説明した「企業プロファイリング」においても、「ミッション」「バリュー」「ビジョン」と構成要素を3つ挙げましたが、戦略策定の前提となる企業活動の「目的」が明確になれば、総てを必ずしも準備しておかなければならない、ということはありません。

特に、戦略策定や計画立案には膨大なパワーと時間がかかることも多く、策を考えているだけで何ヵ月もかかるようなら、実行にもまた長大な労力が必要ですし、また、いざ実行する段になって陳腐化しているかもしれません。実現可能性と費用対効果を考慮して、フレームワークは合目的的に選択して頂ければと思います。

例えば、「事業ポートフォリオ戦略」を策定しようと考え、参考にパラパラと教科書をめくってみたとします。

そこには、

「アンゾフ・マトリックス」
「PPM」
「ビジネス・スクリーン」
「アドバンテージ・マトリクス」など、

というフレームワークがいくつか登場しているはずです。

縦軸・横軸にどういう切り口を採用してマトリクスを作るか、それは個別の企業組織の風土、相対している市場の成熟度、経営者の好みなど、で最適なものを選んでもらえればと思います。どれが一番正しい、というものではない、と筆者は考えています。

守破離(しゅ・は・り)」という言葉をご存知でしょうか?
武道でも茶道でも、日本文化において、「●●道」と呼ばれるもので、師匠に着いて、その道を極める際に、
  1. まず、師匠の教え(型)を修業・精進する中で忠実に再現する・・・「守」
  2. つぎに、自身の技を磨き、他流の良きところも取り入れ、自分の境地を探す・・・「破」
  3. 最後に、一切の型にとらわれず、自らの新機軸を無自覚に生み出す・・・「離」

というステップを踏む様(さま)を表した言葉です。

フレークワークとは、修行の最初に師匠から叩き込まれるもので、後生大事にするものでは無いと思いますが如何でしょうか。そういう共通理解の上で、フレームワークの説明をしたいと思います。


■ 経営戦略の基本構造

前章のように、フレームワークの限界と効用を十分に理解した上で、筆者のプレーンな経営戦略フレームワークの整理の仕方は下図の通りです。

経営戦略(基礎編)_経営戦略のかたち 

1.基本戦略(コーポレート戦略)

「企業プロファイリング」で明らかになった、エンタープライズとして、この会社で取り組むべきこと、取り組む姿勢、この会社と仲間でないとできないことを頭に叩き込んで、次の3つの内、最低でもひとつは社内で共有した方が良いかもしれません。

① 組織
顧客に対して、我が社でないと提供できない価値を生み出すためには、どういう協業体制を構築していなければならないか?
協業相手は、同じ社内の仲間(従業員)はもとより、サプライヤー等、社外のパートナーも含みます。そもそも、社内と社外の境界をどこに定めるかが命題なのです。

② ブランド
顧客からどういう風に認知されたいか? イノベーティブなプロダクトのメーカーなのか、それとも生活を豊かにするための相談に乗るコンシュルジュなのか、マルチブランドなのか、アンブレラ戦略をとって単一ブランドでいくのか?

③ 事業ドメイン
自社が相手にする市場をどう考えるか? 「自動車」を売る会社なのか、快適な移動手段を提供する会社なのか? 「自動車」を売ると決めたとしても、どういう顧客に売るのか、大衆車をマス市場に売るのか、それとも高級スポーツカーを富裕層に売るのか? 売り方は、現金商売なのか、販売金融までカバーするのか、販売後のメンテナンス業務は取り込むのか?

どこで商売したいのか(Will)、どこで商売が成立するのか(Can)の両立を考えるのが難しいところです。


2.事業ポートフォリオ戦略

セグメンテーションされた複数市場を相手にする会社は、自社と顧客にとって最適な事業の組み合わせを考える必要があります。この場合の、複数市場というのは、地理的な分類(日本、アジア、米国、欧州など)、製品的な分類(家電、半導体、住宅用器具など)、時間的な分類(既存ビジネス、新規ビジネス)など、とにかく、分別管理に意味がある単位なら何でも構いません。

よく聞かれるのですが、分別する単位の大小は当事者が決めるもので、相対的なものです。「重電」と「軽電」、「強電」と「弱電」、「電気機器」と「電子機器」、「製品」と「部品」など、言葉が持つイメージはある程度認識できますが、違いはその会社独自のもので良いと考えます。

① 事業シナジー

複数の事業を同一の会社組織でやる意味を明らかにすることです。ひとつの商流の中で、上流の設計や部品製造、中流の加工・組立、下流の販売・サービスの全てを取り込む垂直統合もしかり、銀行業、保険業、小売業をポータルサービスでワンストップで提供することも、一緒にやることで、コストダウン、顧客のベネフィット増大による収入増が得られるのなら、「シナジーがある = 一緒にやる意味がある」ということになります。

② 事業ライフサイクル

ひとつの事業には必ず寿命があり、その成長ステージごとに採用すべき行動は異なるという仮説に基づくものです。新規立ち上げの市場は、需要喚起のための先行投資が必要でしょうし、技術が時代遅れになった製品や、新しいライフスタイルにそぐわないサービスからは撤退を考える必要があります。キャッシュバランスを考えて、なるべく一斉に撤退・新規参入とならないように、異なる成長ステージの市場を敢えて複数抱えるように工夫することもアリです。


3.事業戦略

セグメンテーションされたそれぞれの事業単位で、どうやれば儲かるのか、顧客に支持され続けるのか、競合に勝ち続けられるのか(または、競合がいないところはどこか)を考えることです。


4.機能戦略
市場ニーズを掘り起こし、顧客提案できる商材を開発して、実際に顧客に価値提供するまでの会社内の諸活動が上手く機能するために知恵を働かせることになります。
(バリューチェーンとエンジニアリングチェーンの違いは、こちら


■ (注意点)事業戦略と機能戦略の関係

「基本戦略」は、社員ひとりひとりの「働き」がいい結果に結びつくように、社員が活躍できる舞台を用意することです。プラットフォーム戦略と呼ぶ人もいます。その舞台の上で、「事業」が営まれるのですが、「事業」は、製造業を例にとると、「開発」「調達」「製造」「販売」「アフターサービス」等、ある種の働き(仕事、作業)の種類のいくつかから構成されます。

プラットフォームの上で、どの事業も同質の「販売機能」を利用するかもしれません。代理店販売網であったり、営業マンのトレーニングメニューであったり、自社独自の経営資源の共有というわけです。

ただし、市場特性上、「国内」と「海外」、「民需」と「官公需」とで、販売網や営業マンの資質が全く異なり、事業ごとに、その事業に特化した「営業機能」を準備する必要があることも起こり得ます。

同一プラットフォームの上で、同質的な機能を有効活用するか、個々の事業に特化した機能を準備するか、悩ましい問題です。

従来の経営学の教科書でも、

「組織は戦略にしたがう」と「戦略は組織にしたがう」
「ポジショニング学派」と「ケイパビリティ学派」

といった教条的な論争があります。

筆者は、「顧客視点で考えるべき」という点を特に重視しているので、顧客にとって、組織全体の機能統合の方がベネフィットが高まるのか、事業に特化した機能をそれぞれに構築した方が顧客満足度が高まるのか、ケースバイケースと考える立場をとっています。

「事業」-「機能」-「組織」のそれぞれの組み合わせの妙が、戦略策定者の腕の見せ所だと、実体験から、言わせてください。その内容については、また別の機会に説明したいと思います。


ここまで、「経営戦略のメタ・フレームワーク(2)- 戦略策定のかたち」の説明をしました。

経営戦略(基礎編)_経営戦略のメタフレームワーク(2)- 戦略策定のかたち

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経営戦略のメタフレームワーク(1)- 企業プロファイリング

■ 多層的なビジネス・ヒエラルキー

経営戦略(基礎編)
今回から、個別の経営戦略論の内容を解説する前に、経営戦略を策定する際の基本的なフレームワークを説明していきます。

標題にある「メタ・フレームワーク」の「メタ(meta-)」とは、「高次な-」「超-」「-間の」「-を含んだ」という意味で、「経営戦略論」自体が有する構造(フレームワーク)を、さらに外側から俯瞰して、「経営戦略」の企業経営全体における位置づけや役割、「経営戦略」を策定する行為の説明をすることを目的にしています。

ポーター氏の5 Forces 分析、コトラー氏のSTP理論など、個々の経営戦略論のコンテンツの説明に入る前に、しばらくの間、経営戦略を取り巻く全体構造のお話にお付き合いください。

主に、重厚な「経営計画」を立案・実行することが、経営戦略であると考える人たちの、頭の中の「戦略」の位置づけは、下図のような「ビジネス・ヒエラルキー」として表現されることがあります。
 経営戦略(基礎編)_ビジネス・ヒエラルキー 
ヒエラルキーの上から下へ、順を追って明確にしていかなければなりません。ヒエラルキーの上部は、マネジメントを司る人たちが、考えるモノ(行為対象を示す名詞)でありながら、徐々に下部に近づくにしたがって、マネジメントの司る人たちの、アクション(行為そのものを示す動詞)に変容していっています。

筆者の個人的な感想ですが、このような重厚な戦略策定のステップは、実行可能性に乏しいと考えています。もう少し、簡便にならないでしょうか?


■ シンプルなメタフレームワークとは

そこで、筆者の事業会社での実務経験とコンサルティング経験から、「経営戦略」の企業活動における位置づけを、もう少し簡略化して理解できるようにしたのが、下図になります。
 経営戦略(基礎編)_経営戦略のメタフレームワーク簡略図
◆ プロファイリング
これから「経営戦略」を立案したい主体(株式会社形態などの営利組織)が有している「前提条件」をまず明らかにします。本シリーズで説明してきたとおり、「戦略」とは、「目的」を達成するための最適な「手段」の選択と、その手段の効果的な運用である「戦術」を十分に発揮できるプラットフォームを整えることです。

したがって、「戦略」を考える際には、「目的」が外から与えられなくてはいけない。その「目的」を明確にするのが、「プロファイリング」です。

◆ 経営管理
本ブログでは、別シリーズで「経営管理」を4つの領域に分類して、説明していく予定ですので、このシリーズでは内容までは踏み込みません。一言でいうと、「戦略」を実現して、想定する効果を得られるように、行動計画をたて、実行を管理し、活動結果から得られる効果を測定する一連の企業活動を意味しています。

上記の図は、要約すると、「目的設定」→「戦略策定」→「計画実行」→「効果測定」という時間軸で行われるマネジメントを表していることになります。


■ 企業プロファイリングとは

「3C」「SWOT分析」「SPEC分析」など、分析行為自体にも各種フレームワークが用意されています。しかし、ここでは特定のフレームワークは採用しません。

TVドラマなどの刑事もので、「プロファイリング」とは、犯罪捜査において、犯罪の性質や特徴から、行動科学的に分析し、犯人の特徴を推論して、容疑者を割り出すことを意味しますが、企業経営においても、経営戦略の前提条件である企業活動の「目的」を特定するために、自社の特徴を自覚するのに行われます。

「自社」とは何か、犯罪捜査ばりに綿密かつ的確に己を知るために次の3つのことを、文章にしてみましょう。

①ミッション (何をするために会社を作ったのか)
②バリュー (お客様を喜ばすためにできることは何か)
③ビジョン (これから先、どういう会社になっていきたいのか)


経営戦略(基礎編)_ミッション・バリュー・ビジョン  
決して、この3点セットを耳をそろえて準備する必要はありません。あくまで、戦略策定の前提条件が明確になればよいのです。この3つは相互補完関係にあります。ひとつが強力なメッセージ性を有しているなら、他2者は必ずしも明確になっていなくても構いません。この点が、他の教科書で謳っているフレームワーク論との差異と自分自身で考えています。

例えば、「ビジョン」として、「20XX年までに、連結売上高:5兆円を目指す」というステートメントを決めたとします。この場合、いつまでに、どれくらいの定量目標を達成するか、は明確になりましたが、どうやってその目標を達成するのか、どの市場の誰を顧客とするのか(事業ドメイン)、または、顧客に他社ではなくて自社を選んでもらうための理由付け(バリュー・プロポジション)をはっきりとさせる必要があるでしょう。

こういう場合は、「ミッション」として、「ITの分野でイノベーションを起こして、もっとつながる、もっと便利なソリューションを提供して、ユーザの生活の便利に貢献する」とか、「バリュー」として、「インターネット上にワンストップサービスを展開して、金融サービスから買い物、娯楽までの生活に必要な全てのサービスを取り揃える」というステートメントが必要かもしれません。

留意点として、「バリュー」の捉え方が会社によって大きく異なることがあります。自社の従業員が共有しているべき「共通の価値観」、と表現する会社もあれば、筆者がいうところの顧客に対して提示できる「自社を選んでもらうと顧客に提供できる価値」と表現する会社もあります。

これは、あくまで、同じ「価値」を供給者側と需要者側とで、どちらの視点から見たものかの違いにすぎない、と筆者は考えます。そして、どちらかというと、従業員が大事と思っているものでも、顧客がちっとも良いと思わないものは無意味ではないか、と考えます。顧客サイドから見た「バリュー」とはなにか、を考えた方が、戦略策定の前提条件として、より客観的で的確な判断ができるものと思っています。

「バリュー」とは何か、については、最近はやりの「CSV(Creating Shared Value)経営」というのも参考になるでしょう。


■ ミッション・バリュー・ビジョンの事例を参照してみる

比較的、ネット上で探しやすい企業の、「ミッション」「バリュー」「ビジョン」を眺めてみましょう。

◆ セプティーニ
「ミッション」
私たちは、顧客とのチームワークでインターネットマーケティングにおける無限の可能性に挑戦し、世界に笑顔と感動を与えます。

「ビジョン」
日本を、アジアを、そして世界を代表するインタラクティブ・エージェンシーをつくる

「コアバリュー」
感動、挑戦、チームワーク、笑顔


◆ 中外製薬
「存在意義(ミッション)」
革新的な医薬品とサービスの提供を通じて新しい価値を創造し、世界の医療と人々の健康に貢献します。

「価値観(コア・バリュー)」
1 患者・消費者を最優先に考えて行動します。
2 生命関連企業として、常に高い倫理・道徳観に基づいて行動します。
3 深い専門性と広い視野を持ち、失敗を恐れない革新的・挑戦的な社員を重んじます。
4 良き企業市民として、世界の人々・文化の多様な価値観を理解し、尊重します。
5 一人ひとりの個性・能力とチームワークを尊重する自由闊達な風土を大切にします。
6 地球環境に配慮します。
7 株主をはじめとしたステークホルダーの要請に応え、適正利潤を追求すると同時に適時適切な情報開示を行います。

「目指す姿(エンビジョンド・フューチャー)」
ロシュ・グループの最重要メンバーとして、国内外において革新的な新薬を継続的に提供する、日本のトップ製薬企業となります。


◆ Hilton Worldwide
「ビジョン」
地球という星をおもてなしの心で温かく照らし続けます。

「ミッション」
卓越した世界規模のホテル企業であること、すなわちお客様やスタッフ、オーナーの方々に一番に選んでいただけるホテルになることです。

「バリュー」
Hospitality(おもてなし)お客様に卓越した体験をお届けすることに全力を尽くします。Integrity(一貫性)常に正しいことを行います。
Leadership(リーダーシップ)業界およびコミュニティのリーダーとなります。
Teamwork(チームワーク)全ての事にチームの一員として行動します。
Ownership(責任感)責任のある行動や決断を行います。
Now(現在)迅速性と規律を忘れずに運営します。


◆ リクルートキャリア
「ビジョン(私たちが目指したい未来)」
ひとりでも多くの人たちが「働く喜び」を膨らませ、「働く喜び」の輪が、新たな活力を生み出している社会を創りたい

「ミッション(私たちが果たす社会的使命)」
私たちは、ひとりでも多くの人たちに「働く機会」を、企業に「無くてはならない人材との出会い」を提供し続けます
私たちは、一人一人の「自分の軸となる価値観」と「かけがえのない持ち味」を何より尊重し、共に探し続けます
私たちは、これまでの価値観・技術・やり方を超えて、雇用構造にイノベーションを起こし続けます

「バリュー(ミッション実現につながる一人一人のこだわりどころ)」
・社会起点
できるだけ広く・深く・長い視点で「何のためにやるのか」という目的を描く
・圧倒的な当事者意識
何ごとも我が事としてとらえ自らの責任で考え行動する
・昨日を超える
昨日を超える一歩を踏み出し、結果にこだわって最後までやり遂げる


ここまで、「経営戦略のメタ・フレームワーク(1)- 企業プロファイリング」の説明をしました。
経営戦略(基礎編)_経営戦略のメタフレームワーク(1)- 企業プロファイリング


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戦略論の古典 クラウゼヴィッツの『戦争論』における「戦略」

■ 「戦略」と「戦術」の関係性

経営戦略(基礎編)
前回」のおさらいから始めます。

・「目的」を果たすために、必要な「目標」を立てる
・最も「目標」達成に確実な「手段」を選び取ることが「戦術」である


それでは、「戦略」の立ち位置は、前述の「戦術」との関係性でどのように理解すればよいでしょうか?

とりあえず、クラウゼヴィッツの『戦争論』から参考になりそうな記述を引用します。

・「戦略」は「戦術」を準備する。いつ・どこで・どのくらいの戦闘力をもって戦うかを決める
・「戦略」は「戦術」を収穫する。「戦術」的成果は、勝利でも敗北でも、これを取り上げて、戦争目的達成に利用する
・「戦術」的成功が無ければ、「戦略」的成果は無い


これを図解すると、下記のようになります。

経営戦略(基礎編)_戦争論_戦略と戦術の関係

《ホームセンターの事例で説明》
1.戦場の設定
○○県○○市の○○店という立地で、新規開店するホームセンターの店舗運営を行う
強力な競業店(同業態)が存在しないホワイトスペースへの出店
ただし、商圏は10~15kmと広めな一方で商圏人口は5万人未満とやや少なめ

2.戦力の準備
伸び盛りの若手の中から地元出身のA氏を店長に任命
地元に人脈のあるパートを○○名、パート教育担当としてベテランのB氏を配置
プライベートブランド(PB)の低価格・高品質の品揃えを○万点分そろえる
広告宣伝費およびパートの士気を上げるための報奨金予算を○千万円用意

3.作戦の授与
人脈・地元情報をフル活用した需要情報の収集とそれに基づいた機動的な仕入権限を付与
メンテナンス・設置サービス・コンシュルジュ窓口の設置による付帯サービスの強化
PBをあえてナショナルブランドと並列陳列し、価格・パッケージの差異を際立たせる
早朝営業を実施し、BtoB顧客への訴求を高める(営業開始前に必要部材の調達を可能に)

もし、これだけ用意周到に準備しても、思いの外、売上が伸びない場合でも、密度の低い広範囲に及ぶ商圏での戦い方についての情報を得て、次の店舗オペレーションの改善及び出店方針への参考情報に活かす、これが「戦術」を収穫する、の意です。


■ 「戦略」の持つ時間軸との戦い

「戦略」行動は、戦場で指揮官が戦闘を指示する「戦術」の発揮の前に行われます。したがって、「戦略」は時として「計画」と同義と理解されることがあります。

『戦争論』ではこの辺の事情についてどう記述しているか、再び引用してみます。

・「戦略」とは、戦争の目的を達成するために、諸戦闘を運用すること
・「戦略」は作戦計画を立て、これを達成するために必要な諸行動をこれに結び付ける


なるほど、「戦略」には事前準備、計画の色が濃いようです。しかし、次のような記述もあります。

・「戦略」の具体的なことは、戦場に至って現地で決め、また全計画に対して不断の修正を加えねばならない。立案に必要な諸条件を予め知ることは不可能だからである
・状況判断が実際と一致し、全作戦行動が自然に調和を保って進展し、最終的の成功によって始めて「なるほど、、、」と思わせるような作戦指導が最高なのである


つまり、クラウゼヴィッツは、全力で「戦略」を作戦前に練ることが大切だが、状況判断で「戦略」を適時修正することが成功要因と主張しているのです。それは、目的達成のための最善策を採ることが「戦略」行為のゴールだからです。

・最高の「戦略」とは、戦争の目的を達成するに必要な、そして必要以上でない努力を行使することであり、その際に大切なのは、人目を引くような新戦法を行使することではなく、目的を達成するか否かにある


これは、ミンツバーグ流に言えば、「プランニング・スクール」に分類されたアンゾフ等が主張する「戦略計画」の一連の流れ、「SWOT分析から始まって、時間軸と組織のヒエラルキーに沿って、目標・予算・プログラム(アクションプラン)まで落とし込み、実行段階ではそれらの目標達成に向けたマネジメント・コントロールに変容する」の実行可能性の低さを指摘したことにもつながります。現状分析・計画立案完了まで辿り着いた時には、時すでに遅しと。。。


■ 「戦略」は「不確実性」とも戦わなくてはならない

クラウゼヴィッツはその著書の中で、情報の持つ不確実性と、情報の受け取り方についての教唆(きょうさ)を示してくれています。

・情報とは、敵軍と敵国についてのわれわれの全知識のことであり、われわれの考案と行動の基礎となるものであるが、これほど不確実で、変わりやすいものは無い
・互いに矛盾する情報が殺到して判断に苦しむのは、実は安全なのである。本当に危険なのは、総ての情報が一致して是または非といっている場合で、こんな時には無批判に誤った情報を取り上げやすいからである
・戦争中の情報の多くは虚報であり、生命の危険に対する恐怖心はこの虚偽をますます助長する


そして、クラウゼヴィッツは結局、この「不確実性」への対応方法は、リーダーの個人的資質といっています。彼によると、「戦略」は、

① 精神的要素
② 物理的要素 (戦闘力の大きさ、編成、兵種構成)
③ 数学的要素 (作戦線の軌道:兵力の集中と分散など)
④ 地理的要素 (地形、地勢の利用)
⑤ 統計的要素 (補給)


から構成されており、一番大事なのは「① 精神的要素」ということだそうです。

結局、「戦略」は何か正しい理論が存在するのではなく、「卓越したリーダーの判断」、というのが彼にとっての答えみたいです。それも真理のひとつだと思いますが、何か一定の「法則」「公理」みたいなものは無いか探してみたくもなります。

このことは、「経営戦略論の見取り図」にて、「必ず成功するセオリーとしての『経営戦略論』か、経営者の『現場・現物』に関する知見か」という話をしたことに通じます。

「万能の理論」か、「卓越した幾多の成功事例(ビジネスモデル)」か、「経営戦略」のお話をするうえで、常にこのことに留意して、このシリーズを続けていきたいと思います。

最後に、クラウゼヴィッツの言葉で締めたいと思います。

・戦争においては、計画の際には考えも及ばなかったような、無数の小さい、いろいろな事態が発生して実行を妨害し、所期の目的を達成できなくしやすい、このような摩擦や障害を粉砕できるのは、ただ鋼鉄のような意思の力だけで、これこそ、兵学の中心的存在である


ここまで、「戦略論の古典 クラウゼヴィッツの『戦争論』における「戦略」」を説明しました。

経営戦略(基礎編)_戦略論の古典 クラウゼヴィッツの『戦争論』における「戦略」

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小林友昭

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