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管理会計的に『儲け』を測る(1)

■ 管理会計で着目すべきもの

管理会計(基礎編) 
前回、「相対的真実」の制約条件の中で、「比較」精神を発揮して、意思決定に役立つ比較データを作成(選択案の比較検証)する営みを管理会計と説明しました。では、管理会計的思考をめぐらして、何を比較検討して、何をジャッジするのでしょうか?

(イントロダクション)-『管理会計』またの名を『戦略会計』」にて、管理会計が目指すところを会社の「Going Concern」と「Profitability」の視点から「会社が儲かり続けるしくみづくりのお手伝い」をすることと表現しました。これは、言い換えると、「会社が継続していくための資金が十分に確保できていること」と「会社が十分に儲かる事業を営めるようにすること」を会計的数値ベースで考えていけるようにすることともいえます。

結局のところ、「儲かって」⇒「会社運営の資金を得ること」が大事ということになります。すべての始まりは「いくら儲かったか」「どうすれば儲かるか」という思考をめぐらすことになります。

ここで注意して頂きたいのは、「革新的な製品・サービスを市場に出して社会貢献したい」「地方の経済を活性化したい」という経営そのものの動機は筆者も立派だと思っていることを理解してもらいたいのです。そのうえで、そういう立派な動機(ミッション)を達成するために、活動資金が必要なだけで、その活動資金は会社の儲け(またはこれから儲かるという確信)から得られるということなのです。その儲けをいろいろ測定する技術を管理会計が持っているというわけです。


■ 会社の『儲け』を測るものさし

管理会計で会社がどれだけ儲かったか、その「儲かり度」をはかるものさしは大別して3種類あります。管理会計の世界では、T.P.O. に応じて、この3種類を使い分けます。
  1. 「会計原則」をベースとした「(会計的)利益」
  2. 「税法」をベースとした「所得」
  3. 「キャッシュフロー」をベースとした「キャッシュ」または「現金収支」

そして、「相対的真実」というのは、「会計原則」の中で、会計技法的に「在庫評価法」とか「固定資産の償却法」の選択的適用が可能な状態をいうだけでなく、たった一つの商取引だとしても、上記の3種類の方法で評価すると、どれくらい儲かったかの結論が異なってくることも意味しています。

では、具体的ケースを使って、この3種類の違いを体験してもらいましょう。


■ (ケーススタディ) パソコンレンタル業を始めました

あなたは、PCを企業にレンタルする会社(A社)を始めました。

<脱線>
よく「リース」と「レンタル」の違いは貸し出している期間が相対的に長いか短いかだけの違いとか、言われていますが、根拠となる法律も異なり、いろいろ違いがあります。一番分かりやすい相違点は、「リース」は借り手が最初から特定のリース物件が目的でリース契約を始めること、「レンタル」はレンタル会社が持っている在庫から貸してもらいたいものを選ぶこと、という違いになります。

管理会計(基礎編)_レンタル業のケース

このケースでのポイントは、税法(強制法規)では、法定耐用年数が5年となっていますが、あなたは、このレンタル用PCは、3年のレンタル期間が終了した後に廃棄することを既に決めているので、会計的には、耐用年数3年が適切と考え、税法とは異なる償却期間を選択したというところです。

この「会計的」という判断の裏には、「費用収益対応の原則」があり、レンタル売上が3年にわたって計上されるということは、それに対応する費用も3年で発生を考えるのが適切、というものです。


■ A社の3年間にわたる『儲け』を「会計原則」で測定する

早速、A社のB社に向けた業務用PCのレンタル期間である3年間の『儲け』―「(会計的)利益」の推移を下記のようなグラフにしました。

管理会計(基礎編)_レンタル業の儲け_会計原則

理解のポイントは、このケースでは「税効果会計」を採用しているため、毎年の「法人税」支払額の調整をどう整理できるかにかかっています。

会計的には、毎年の減価償却費は、50,000円としていますので、レンタル売上:100,000円との差し引きで、税前利益が50,000円となります。これに、法人税率:40%が適用されて、法人税を20,000円と計算したくなるところです。ただし、税法では、毎年の減価償却費は30,000円となっているので、レンタル売上:100,000円から、税法が指示する減価償却費30,000円を差し引いた70,000円に法人税率:40%がかかりますので、28,000円が納付すべき法人税額となります。

この、会計的視点からの法人税額:20,000円と、税法が指示する法人税額:28,000円は、3年目に、パソコンを廃棄することでチャラになることが分かっているので、1年目と2年目は税法が言う通りに法人税額:28,000円を納付しますが、会計的には、1年目と2年目は会計側で決めた減価償却費に基づいた利益を計算してあげます。この1年目と2年目の法人税額に対する見解の差異8,000円は費用としてみないが、法人税としては納付(お金はキャッシュアウトする)するので、費用の繰延として、P/L上の費用から除いて、B/Sに繰延資産として計上します。

3年目は、1年目と2年目の税金繰り延べ分を戻してあげます。それが3年目の税金等調整額:16,000円の正体です。さらに、3年目は、税法的にはPCの廃棄損が60,000円分(廃棄時点で残っている法定耐用年数分の未償却金額)が発生するので、60,000円×40%=24,000円だけ、法人税額が少なります。1年目・2年目の納税額:28,000円から24,000円を差し引いた4,000円だけが3年目の法人税額となります。

これが、「税効果会計」を適用した「会計原則」から見た毎年の会社の儲け(=利益)になります。

次回は、同じケースで、それぞれ「税法」と「キャッシュフロー」視点だと、どういう会社の儲けになるのか、説明したいと思います。

ここまで、「管理会計的に『儲け』を測る」を説明しました。
管理会計(基礎編)_管理会計的に『儲け』を測る
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イオンの針路(下) 財務指標に潜む警告 「稼ぐ力」伴う拡大必要

■ 稼ぐ力を示す指標

経営管理会計トピック
特集記事の最終回。「イオンの針路」がイオンの収益力についてある財務指標を使って分析していました。

2014/9/28付 |日本経済新聞|朝刊
イオンの針路(下)財務指標に潜む警告 「稼ぐ力」伴う拡大必要

(注)日本経済新聞の記事へ直接リンクを貼ることは同社が禁じています。お手数ですが、一旦上記リンクで同社TOPページに飛んでいただき、上記リード文を検索すればお目当ての記事までたどり着くことができます

記事では、
「投資家が重視する財務指標のROIC(投下資本利益率)。税引き後の営業利益を投下資本で割って算出する。投下資本とは株主資本と有利子負債の合計。つまりは調達したお金でどれだけ効率的に利益を稼いだかが分かる」
として、ROICで収益力を測る大切さを説いています。

また、
「低いROICはM&A(合併・買収)のたび、バランスシートが拡大する半面、見合う利益が上がっていない現実を物語る。岡田社長も「(規模と)利益の成長との間に時間差があり、それを最小にするのが課題」と認める」
とあり、経営者も自身の経営成果としての収益性についてROICを重視している表現が見受けられます。

投資家も経営者も重視している「ROIC」とは同じものを指しているのでしょうか?


■ 投下資本の算出方法

ROICは割り算指標なので、分子と分母がある基本ポリシーで統一されて、その比率に意味がないと成立しない指標です。

ここでは、分子は敢えておいておくとして、分母の「投下資本」について議論したいと思います。

投資家から見れば、たとえ簿価評価額だとしても、自分たちが投資(融資&出資)したお金がどれだけのリターン(ここではNOPLAT)を生んだか、その効率で投資採算性を評価する意思が働きます。

その場合は、
投下資本 = 有利子負債 + 自己資本
となります。

経営者から見れば、自身の経営手腕で、ある事業に投下した資産がきちんと収益を生んでいるかの事業採算性を評価したいとする意思が働きます。

その場合は、
投下資本 = 運転資本 + 固定資産 (+ 手元流動性)
となります。

ここでも気になるのは、「手元流動性」の内、何割が事業に投下しているのか、すなわち営業正常循環の中で、現預金がいくらないと、当該事業内のキャッシュフローが回らないか、簡単に測定・識別することが難しいということです。
難しいならば、全部入れるか全部外すか、どちらかですが、余剰資金は無いのだということで、ここでは全て投下資本に入れることにします。

もうひとつ、「固定資産」の内容を吟味する必要があります。「固定資産」には通常「投資その他の資産」ということで、「投資有価証券」「長期貸付金」など、直接事業活動に使用しているわけではなく、余剰資金をとりあえず1年以上の期間運用しているだけです。こういうものが「本当に事業に投下しているのか?」疑問符が付くものがあるということです。

簡単に下記に図示しておきましょう。

経営管理会計トピック_投資家から見た投下資本 

経営管理会計トピック_経営者から見た投下資本


■ 実際にROICを計算してみる

記事には、イオンのROICが約4%とあり、同業他社の数字も並んでいます。
物は試しにEDINETから有価証券報告書を引っ張り出して、こちらで試算してみます。
少々面倒くさいので、「平残」方式ではなく「期末在高」方式の採用をご容赦ください。

経営管理トピック_ROIC

留意事項は下表のとおりです。
経営管理トピック_ROIC_注意点

銀行業における預金は、試算上は投下資本に算入していますが、リース債務は入れていません。また、受取利息・受取配当金・持分法による投資利益は分子が営業利益とした時点で入れていません。

イオンは、銀行業の預金を有利子負債にしなければ(通常の財務分析でも入れませんが)ROICは約3%にはなります。しかし、イオンの営業利益の23.8%の409億円は、有価証券報告書のセグメント情報によると、「総合金融事業」からの儲けとなります。約1/4は金融業による儲けということは、単純に流通業同士の比較では、比較のベースがずれてしまうように思えます。預金者から預かったお金は、利子をつけて返しているわけですからね。イオンのセグメント情報における有利子負債にも預金は入っていません。実態を見ることをお勧めします。イオンにとってROICを説明したい債権者は一体誰なのでしょうか?

また、投資(事業)規模という観点からの注意が必要です。下のグラフは、ROICの分子・分母の分布を表したものです。当然素直に考えると、事業規模が拡大すると、規模の利益が得られるのか、収穫逓減の法則が働くか、必ず分岐点が出てきます。また、ニッチトップの企業は敢えて規模の拡大を捨てて、高利益率の方を選択する戦略もありということです。

経営管理会計トピック_ROIC_グラフ_イオン

くどいですが、筆者からのコメントは、
  1. ROICは、立場・分析目的によって計算式のバリエーションがある
  2. イオンは既に、流通業専業ではない
  3. 収益性指標は必ず事業規模を考慮して分析する

本日は以上です。



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第3の刺客 キャッシュフロー計算書 登場

■ キャッシュフローを見る必要性

会計(基礎編) 
前回、「信用取引」が行われた際の会計帳簿である「貸借対照表」と「損益計算書」の成り立ちを説明しました。会社が「どれくらい儲かったか」を見るために、2種類の利益の計算方法、「財産法」と「損益法」に対応するように、それぞれ「貸借対照表」と「損益計算書」が使用されることも学びました。どれくらい儲かったか計測したい期間の始まりと終わりの「貸借対照表」を差し引きしたり、どれくらい儲かったか計測したい期間の財産の増減取引を網羅的に記録した「損益計算書」があれば、「利益」は計算できることを確認しました。

ただし、前々回の「現金商売」のケースと前回の「信用取引」のケースでは、計算された「利益」の額は同じなのですが、「利益」が計算されたとき(決算時)、会社に残っている「現金」の金額も同じでしたでしょうか?

イタズラに、会計帳簿は種類が多くあるのではなく、それぞれ役割・役目があります。詳細は、全種類の会計帳簿が登場した時に再整理しますが(一体いくつあるのかはお楽しみに!)、「キャッシュフロー計算書」にも「貸借対照表」や「損益計算書」にはないものをチェックするために存在しています。


■ 「現金商売」と「信用取引」の会計帳簿を再確認

それでは、前々回と前回の玩具屋さんの経営の事例をもう一度おさらいしましょう。

《A.現金商売》

会計(基礎編)_貸借対照表_現金商売_決算 

会計(基礎編)_損益計算書_現金商売_決算 


《B.信用取引》

会計(基礎編)_貸借対照表_信用取引_決算 

会計(基礎編)_損益計算書_信用取引_決算

まず、内容の精査に入る前に、ここで、一つ目のお約束事を皆さんに取り付けさせて頂きたいと思います。会社が手提げ金庫などで手元に保管している「現金(現ナマ)」と、金融機関に預けている「預金」は、合わせて「キャッシュ」と呼びたいと思います。現実世界でも、皆さんの財布には現金とキャッシュカードが入っていると思います。現金が不足したら、即時にATMに行って現金を下ろしてくると思います。両者にはあまり違いはないのでは、、、?
(ちなみに、筆者は結婚してからキャッシュカードは一切持たされておりません (´Д`。))

会計の世界では「現預金(げんよきん)」と呼び習わし、一括りに表現することがあります。「キャッシュフロー計算書」における「キャッシュ」は「現預金」のことを指します。
(もうちょっと勉強している方は「現金同等物」という言葉を聞いたことがあるかもしれません。これも全部「キャッシュ」とここでは簡単にご理解ください)

では、前置きはこれくらいにして、2つのケースを比較してみましょう。

「A.現金商売」の時には、「貸借対照表」上に残っている「キャッシュ」は、160万円です。
「B.信用取引」の時には、「貸借対照表」上に残っている「キャッシュ」は、60万円です。

「キャッシュ」は100万円も違うのに、「利益」はどちらも60万円で一緒です。
この「利益」は同じなのに、「キャッシュ」が異なる状態が、昔はそれほどありませんでした。しかし、産業革命以降、産業経済が発達して、いろんな為替取引や商取引形態が登場してきて、「利益」と「キャッシュ」のかい離がどんどん大きくなりました。
(厳密には後ほど説明します)

皆さんは素朴に、下のような等式が成り立つという感覚をお持ちだと思います。
「会社が儲かっている」=「利益が増える」=「キャッシュが増える」

2つ目のイコールが「利益額」と「キャッシュ」とで皮膚感覚として合わなくなったので、「利益」をダイレクトに計算する「損益計算書」とは別に、「キャッシュ」の増減を計算する「キャッシュフロー計算書」を見てみたくなったわけです。


■ キャッシュフロー計算書をつくってみる

それでは、「A.現金商売」と「B.信用取引」の2つのケースそれぞれの「キャッシュフロー計算書」をつくってみましょう。

《A.現金商売》
  1. 会社設立時に、株主(親父)から出資として100万円のキャッシュが入ってくる
  2. それとほぼ同時に、信用金庫から融資として100万円のキャッシュが入ってくる
  3. 店舗を不動産屋から購入した時に、100万円のキャッシュが出ていく
  4. 商品を問屋から購入した時に、100万円のキャッシュが出ていく
  5. お客様に商品を販売した時に、200万円のキャッシュが入ってくる
  6. 自分に給料を支払う時に、30万円のキャッシュが出ていく
  7. 信用金庫に利息を支払う時に、10万円のキャッシュが出ていく

ここで2つ目のお約束事として、ある一定期間(決算から決算の間)に、「キャッシュ」が出ていったり、入ってきたりする取引やその金額のことを「キャッシュフロー」といいます。そして、入ってくるキャッシュのことを「キャッシュ・イン・フロー(CIF: Cash In Flow)」、出ていくキャッシュのことを「キャッシュ・アウト・フロー(COF: Cash Out Flow)」と区別した言い方もあります。

下表では、紙面の都合もあったので、いきなり略称の「CIF」「COF」を使用させて頂きます。 

会計(基礎編)_キャッシュフロー計算書_現金商売

ここでの気付きは2つです。
  • 「キャッシュフロー計算書」は、「貸借対照表」と「損益計算書」に記録されている項目をごちゃ混ぜにして計算されること
  • 「損益計算書」の時には、財産の増減に無関係ということで無視されていた「店舗購入」がCOFとして計算対象になっていること

《B.信用取引》
  1. 会社設立時に、株主(親父)から出資として100万円のキャッシュが入ってくる
  2. それとほぼ同時に、信用金庫から融資として100万円のキャッシュが入ってくる
  3. 店舗を不動産屋から購入した時に、100万円のキャッシュが出ていく
  4. 自分に給料を支払う時に、30万円のキャッシュが出ていく
  5. 信用金庫に利息を支払う時に、10万円のキャッシュが出ていく
会計(基礎編)_キャッシュフロー計算書_信用取引

ここでの気付きは1つです。
会社設立時の、会社立ち上げ資金以外にCIFが無いので、どんどん会社の中の「キャッシュ」が少なくなる一方で一切入ってきていないこと


■ 改めて確認 ―「キャッシュフロー計算書」の必要性

信用取引がどんどん発達していった結果、実際に「キャッシュ」を受け取らない、渡さない商取引が増えていって、「貸借対照表」と「損益計算書」の上では、プラスの「利益」が計算されたとしても、「キャッシュ」がどんどん不足していって、銀行に利息を支払えなくなる時が来るケースが発生する可能性が出てきました。

「利益」が出ている=「黒字」なのに、手元に「キャッシュ」が無いために、債務(金融機関や取引先から借りているお金)を返済できなくなり、いわゆる「倒産」する会社がぼちぼち出てきました。そうなると、銀行も、「貸借対照表」と「損益計算書」だけ見て、「利益」が出ているからといって、安心して融資した後、返済してもらえなくなることを恐れて「キャッシュフロー計算書」も見るようになったのです。

「資産(財産)」の増減を「利益」として表現した「損益計算書」と、「キャッシュ(残高)」の増減を「キャッシュフロー」として表現した「キャッシュフロー計算書」の2つを併用する必要性が出てきたということです。

このように、「利益」がプラス=「黒字」なのに借金を返済できなくなり「倒産」(=銀行取引停止)になることを「黒字倒産」といいます。こういう言葉が登場してきたというのは、そういう会社が増えてきて、銀行も注意をし始めたということです。

ちなみに、「キャッシュフロー計算書」が登場する前は、「キャッシュ」の増減を見る会計帳簿がいろいろありました。

「資金繰り表」
「資金移動表」
「資金運用表」 などなど。

筆者は、「キャッシュフロー計算書」が正式な会計帳簿になる前から、経理実務をしていたので、これらの帳票を使って実際に仕事をしていました。

今でも、会計実務の中で、これらの帳票が活躍しているのを見ることがあります。というより、少なくとも「資金繰り表」は無いと資金管理に困ってしまうので、逆に無いと困ります。まあ、世の中の偉い学者と賢い官僚が導入を決めた「キャッシュフロー計算書」より昔の会計帳簿の方が使い勝手があると思っている人は筆者以外にもいらっしゃると思いますが、「キャッシュフロー計算書」が華々しくデビューした時には、皆が万能帳簿として誤解をしたものであります。

ちなみに、「貸借対照表」と「損益計算書」の組み合わせで「キャッシュ」残高の安全性や擬似的な「キャッシュフロー」を計算したり、倒産の危険度を測ったりする会計技術があります。それは「財務分析(その中でも「安全性分析」)」というもので、これについては別シリーズで説明したいと思います。

ここまで、「第3の刺客 キャッシュフロー計算書 登場」を説明しました。
会計(基礎編)_第3の刺客 キャッシュフロー計算書 登場



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真相深層 老舗ミツカン20年の計 米で売上高超す買収、中埜会長に聞く「パスタソースは米国版『味ぽん』」

■ 同族非上場企業の強み

経営管理会計トピック
調味料大手のミツカンホールディングズが6月(いささか旧聞ですが)に英蘭ユニリーバから21億5000万ドル(約2300億円)で北米パスタソース事業を買収した件につき、中埜会長へのインタビュー記事が出ました。

2014/9/27付 |日本経済新聞|朝刊
真相深層 老舗ミツカン20年の計 米で売上高超す買収、中埜会長に聞く「パスタソースは米国版『味ぽん』」

(注)日本経済新聞の記事へ直接リンクを貼ることは同社が禁じています。お手数ですが、一旦上記リンクで同社TOPページに飛んでいただき、上記リード文を検索すればお目当ての記事までたどり着くことができます

記事では、「自社売上高(2014年2月期で1642億円)を上回る巨額投資をした裏側には、200年以上続く同族非上場企業ならではの長期的な発想と準備があった」とあり、また「四半期決算を意識し、いかに早く収益を出すかを日々考える上場企業の経営者とは無縁の発想がある」ともありました。

なるほど。
上場会社は、何よりも株主への還元を優先し、非上場会社は、譲渡制付限株式の所有者に対しては、株主還元より優先(というより無視!?)して企業の中長期的収益力向上への投資をするという思い込みはないでしょうか。もしそうなら、現存する上場会社はいつか利益が出なくなり、淘汰され、非上場会社から新たに上場会社が生まれてくるという新陳代謝が繰り返されるだけということになります。

つまり、上場会社からは、利益が出ているうちに早く配当で搾り取って、淘汰される前に投資を回収するという行動は、投機家おっと失礼、投資家としてまっとうな投資戦略ということになります。

冗談はこれくらいにして、非上場、同族無関係に、中長期的に企業成長に投資できる会社が生き残るというのは、少なくとも会社が Going Concern として継続していくための「必要条件」だと思います。そのために、「非上場」や「同族経営」がそのまた「必要条件」なのだとしたら、上場・株式公開という経済行動は、賢い財務戦略ではないようです。

非上場会社には、中長期的視点経営を賛美し、上場会社には株主還元を強いる、報道の在り方が問題ではと思いますが、皆さんはいかがでしょうか?


■ 買収の意味

今回の買収の意味は、ビジネス視点もありますが、非上場とはいえ、ミツカンの企業価値向上のために、プラスかマイナスか、から見てみることにしましょう。

インタビューにより、「米国ではパスタソースは(ポン酢製品の)『味ぽん』みたいなもの。マーケティングの考え方は一緒だ」「日本と米国の経営資源を融合し、(筆者注:米国市場で味ぽん販売ノウハウを活用して)新たな売り方の提案を進める」との中埜会長の意図が汲み取れます。つまり、ミツカンの持つ形式知(時には暗黙知)による経営ノウハウを北米のパスタソースの製造販売に活かせれば、いわゆる「事業シナジー」が発揮されて、買収額以上の剰余価値が生まれるというストーリーです。おそらくそうなのでしょう。

と同時に、「新興国市場ではなく、政治経済が安定している市場を選択した」というのも、事業リスクと成長の機会を天秤にかけたこと以上に、既存ノウハウが一番発揮できる市場として「北米-パスタソース」を事業選択したということです。

この練達の経営者の眼力の正しさを経過観察していきたいと思います。

そして、この事業の多角化は、事業ポートフォリオの形成につながります。インタビューでも「企業の永続性のために「資産と収益源の分散」が必要という考えに基づく」とあります。

これは、筆者が以前の記事で言及したように、「投資ポートフォリオ」と「事業ポートフォリオ」の選択権の問題でもあります。今回は非上場なので、後者の視点で投資が行われたということです。


■ 投資の原資に興味あり

今回の買収案件をお金の面から見てみると、「00年代以降、地道に資金を積み上げ、買収に使える自己資金を16億ドル蓄えた」「今回のM&A(合併・買収)資金の一部は銀行からも借り入れており、蓄えた16億ドルのうち8億ドルは手元に残せる」との記述がありました。

残念ながら、ミツカンホールディングズは非上場なので、EDINETで財務諸表を確認することができません。そこで、「法人企業統計」から「平成24年、食料品製造業」の財務諸表から、おおよその推測をしてみたいと思います(全くの興味本位からです)。

以下は、横道。
同社のホームページから資本金1000万円とありますが、持ち株会社としての数字です。連結従業員が約2970名なので、資本金10億円以上の会社の1社あたり従業員数は1318名と出たので、ミツカンには資本金10億円以上の会社の統計値を適用することにします。皆さんも、最近はやりの「ホールディングズ」に注意してください。有価証券報告書でも、「○○ホールディングズ」の数値は、従業員数、平均年齢、平均勤続年数、平均年間給与が異常値になり、昔みたいにグループ全体の実態が分かりにくくなりました。ここは、ディスクロージャー制度の限界みたいなもので、今後の改善を期待します。
(横道終わり)

法人企業統計からは、下記財務比率データが確認できました。
総資産回転率: 1.14(回)
現金・預金構成比: 5.1%
有価証券構成比: 1.5%
有利子負債構成比: 11.1%
利益剰余金構成比: 29.1%

ミツカンホールディングズのホームページ及び当該記事から、
FY13売上高: 1642億円 なので、

総資産: 1440億円
現金預金: 58億円
有価証券: 22億円
有利子負債: 160億円
利益剰余金: 419億円

と推計できます。

しかし、記事には16億ドル(なぜドル表示なのかはわかりませんが)の自己資金を蓄えたとあるので、1ドル=100円で換算すると、1600億円の自己資金、これが、現預金+有価証券なのか、利益剰余金を言っているのか、定かではないのですが、現預金+有価証券と類推すると、ミツカンのB/Sにおける現預金+有価証券の平均超過額は、1520億円。ここから800億円は子会社株式に振り替わるので、720億円が平均値からの超過分。

有利子負債は、2300億円の買収資金の内、手元資金から800億円出しているので、差し引き1500億円の借り入れとなり、同額分だけB/Sの子会社株式としても借方増となります。

貸借とも、これらの分だけミツカンのB/Sが膨らんでいると仮定すると、

現預金+有価証券: 800億円 (17.9%)
有利子負債: 1660億円 (37.2%)
利益剰余金: 1939億円 (43.5%)
総資産: 4460億円 (100.0%)

記事より、北米のパスタソース市場は2000億円超。このうち、買収会社のシェアは33%なので、売上は660億円増収見込み(記事には650億円と記載があり、以下の計算はこちらを採用)。

合計で、今期の売上見込は2292億円となるので、
総資産回転率を再計算すると、0.51(回)となります。

また、現預金、有価証券、有利子負債と利益剰余金から、DEレシオもどきを計算すると、

業界平均値は、
DEレシオもどき = (11.1% - 5.1% - 1.5%) ÷ 29.1%
           = 0.15

ミツカンホールディングズ推計値は、
DEレシオもどき = (37.2% - 17.9%) ÷ 43.5%
           = 0.44

総資産回転率もDEレシオもどきも、業界平均を大きく下回る結果となりました。

皆さんは、この推計値と中埜会長の眼力とどちらを重視されますか?

私見ながら、筆者は会長の「各地の食文化にあったブランドをつくっていく」という経営方針を支持するものであります!

しかしながら経営は結果が全て。今後も経過観察を続けていきたいと思います。





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損益計算書の進化

■ 現金商売から信用取引へ

会計(基礎編) 
前回は、「貸借対照表」を使って、財産の増え分から利益を計算する方法、「損益計算書」を使って、財産の増減を表す取引を漏らさず集計して利益を計算する方法、そしてこの2つの方法で計算される「利益」は原則一致することを説明しました。
理解のコツは、「資産(財産)」の増加分が「利益」という理屈なんだと肌で感じることです。

さて、玩具屋さんの経営を通して、みなさんは「利益」の計算方法を習得されたかと思いますが、今回は、もう少し実際のビジネスに近い取引をベースにして、ケースの難易度を上げたいと思います。

ここを通過しないと、第3の会計帳簿である「キャッシュフロー計算書」まで辿り着けないので。。。

それは、「信用取引」によって商売を回すということになります。「会計の歴史」で触れましたが、産業革命以後の「損益法」「収益費用アプローチ」による「利益」計算は、2つのポイントがあり、そのひとつがこの「信用取引」をどうやって「損益計算書」に記録しているかにかかっています。

現金取引でなくても、会社の財産が増えたり減ったりする取引も「損益計算書」に記録していきましょう、これが「損益計算書」の進化というわけです。


■ お父さんに出資してもらうところからやり直し

前回までの「おさらい」を兼ねて、田舎のお父さんに会社設立の資金を出してもらうところから再スタートしましょう。

《1.会社設立》
あなたは、玩具屋を始めるにあたり、会社設立資金を用意しました。
  • 父親が株主になって100万円の出資をしてもらった。会社名義の預金口座に振り込んでもらった
  • 信用金庫から100万円の融資をしてもらった。同じく、会社名義の預金口座に振り込んでもらった

会計(基礎編)_貸借対照表_信用取引_会社設立 

《2.開業準備》
あなたは、玩具屋を開くための店舗を、用意した開業資金を使って不動産屋から購入しました。くどいようですが、手元資金と店舗を等価交換しているので、この店舗購入取引から会社の資産は増えない、つまり、利益は発生しないので、「損益計算書」には何も記載されません。
  • 会社名義の預金口座から100万円を引き出して、不動産屋に支払って、代わりに店舗を手に入れた

会計(基礎編)_貸借対照表_信用取引_開業準備  

《3.商品購入》
あなたは、前職の友人の紹介で問屋を紹介してもらい、売り物である玩具を購入することにしました。友人と問屋は数年来の付き合いだったので、あなたのことも信頼してもらい、現金ではなく、「つけ」で商品を購入させてもらえることになりました。
(⇒これが信用取引①)
  • 問屋にいつか現金を支払う約束をして、商品100万円を購入した。これは、手元の現金と等価交換していないので、100万円分だけ会社の財産が増えると考えることができる。
会計(基礎編)_損益計算書_信用取引_商品仕入
  • 「つけ払い」とは、将来に問屋に代金を支払うことを猶予してもらっていることになり、問屋にお金を借りているのと同じなので、「負債」に同額の100万円を記録した
会計(基礎編)_貸借対照表_信用取引_商品仕入

《4.商品販売》
あなたは、来店したお客様に商品を販売しました。レジでお客様がクレジットカードによる決済を選択されて、ボーナス時一括払いということになりました。クレジットカードで販売する場合は、販売金額を毎月、月末日や20日で締めて(集計して)、翌月15日に契約された銀行口座から販売額分がお客様の口座から入金されるということです。
(⇒これが信用取引②)
  • お店に陳列していた商品100万円が完売し、モノはお客様がすべて持ち帰ってしまった
  • 同時に、お客様から代金として現金を受け取る代わり、クレジットカードで200万円を将来に支払ってもらう権利を受け取った
会計(基礎編)_損益計算書_信用取引_商品販売
  • 商品が100万円分、会社の財産からなくなり、代わりにクレジットカードの請求権:200万円分だけ会社の財産が増えた。財産の増減は、「貸借対照表」に記録される。
会計(基礎編)_貸借対照表_信用取引_商品販売

《5.給与支払い》
サラリーマン社長として、自分の給料を会社から支払ってもらいます。
  • 会社の預金口座から30万円を自分の個人用の預金口座へ振り込んだ

会計(基礎編)_損益計算書_信用取引_給与支払 

 

  • 会社の財産である預金が減ったので、その分を「貸借対照表」にも記録する

会計(基礎編)_貸借対照表_信用取引_給与支払 


《6.利息の支払い》
融資をしてくれた信用金庫へ借入利息を支払う必要があります。利率は10%を約束していたので、

元金:100万円 × 利率:10% = 10万円 

を信用金庫に支払います。
  • 会社の預金口座から信用金庫の口座へ10万円を振り込んだ

会計(基礎編)_損益計算書_信用取引_利息支払 

  • 会社の財産である預金が減ったので、その分を「貸借対照表」にも記録する

会計(基礎編)_貸借対照表_信用取引_利息支払 


■ 利益と会社の財産状況はどうなったか

《7.決算》
「信用取引」による商品の売買によって、会社はどれだけ儲けることができたのでしょうか。
「損益計算書」を眺めて、財産の増減明細から「利益」を計算してみましょう。

会計(基礎編)_損益計算書_信用取引_決算

「信用取引」によって、会社の財産と負債にあらたな項目が増えました。
「貸借対照表」を眺めて、財産がどういう項目として増えたか確認してみましょう。 

会計(基礎編)_貸借対照表_信用取引_決算

「貸借対照表」の左側には、将来お金になることが確実な「クレジット請求権」、右側には、将来問屋にお金を支払うことが確実な「つけ」が記録されています。この分、現金取引だった場合より、「貸借対照表」の合計金額が100万円分だけ膨らんでいます。

さあ、次はお待ちかね?の「キャッシュフロー計算書」のしくみを見てみましょう。

ここまで、「損益計算書の進化」を説明しました。

会計(基礎編)_損益計算書の進化
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スクランブル 親子上場に敏感な株価 日立「本体で稼ぐ力」評価

■ 親子上場は、企業価値の評価がしにくい!?

経営管理会計トピック
9/24の株式市場では2つの完全子会社化のニュースが駆け巡りました。イオンとダイエー、米国スターバックスとスターバックスコーヒージャパンです。

2014/9/25付 |日本経済新聞|朝刊
スクランブル 親子上場に敏感な株価 日立「本体で稼ぐ力」評価

(注)日本経済新聞の記事へ直接リンクを貼ることは同社が禁じています。お手数ですが、一旦上記リンクで同社TOPページに飛んでいただき、上記リード文を検索すればお目当ての記事までたどり着くことができます

記事では、ソフトバンクがアリババ集団の株価下落につれ安したことと、グループ再編で上場子会社を整理した日立製作所の株価の向上を対比させていました。
ソフトバンクが保有する世界に展開する3社の上場子会社の持ち分として、ヤフー(日本)が8800億円、スプリント(米国)が2兆3100億円、アリババ集団(中国)が7兆7900億円で合計すると、10兆9800億円。それに対して、ソフトバンクの時価総額が9兆5100億円と、上場子会社の持ち分合計の方が親会社の時価総額を1兆4700億円上回っています。

記事には、「保有株が過大評価されているのか、本業が過小評価なのか、市場が判定するには時間がかかりそうだ」と、とある証券会社のストラテジストのインタビューを掲載していました。

一方で、日立製作所に対する評価として、「09年3月期の7873億円の連結最終赤字を計上したのをきっかけに、グループ内の重複事業の整理・集約を進めた。(途中省略)一方、ディスプレーなど不採算事業を切り出し、本体や完全子会社の収益力を回復させた」と改革の成果があがり、株式市場もそれを評価しているとされています。

記事の論調としては、ソフトバンクと日立製作所の対比から、親子上場に対して否定的な姿勢が見て取れます。


■ コングロマリットディスカウント

一昔前までは、「親子上場」そのものというより、上記のソフトバンクのような状態が発生すると、「多角化」とその結果として子会社上場について、経営者の事業ポートフォリオマネージャーとしての手腕が、高度な多角化に対して力量不足になり、多角的な事業間のシナジーを発揮するどころか、個々の事業価値を毀損し、事業ポートフォリオ全体として、いわゆる「コングロマリットディスカウント」状態が生じている、と断罪される時代(80~00年代)がありました。

この時代は、まだ法整備が進んでおらず、純粋持ち株会社も事業持ち株会社もない時代でした。当然、経営者は法整備が無いところで、多角化された事業運営をしていました。

(まあ、外から見れば、多角化と呼べるほどの違いがあるか、と突っ込みたくモノもありましたが。だって、爬虫類も鳥類も脊椎動物で、無脊椎動物の原生動物(ミドリムシ・アメーバ)から見れば、大した違いはないでしょ!)


■ 純粋持ち株会社と事業持ち株会社の違い

法律的にどうこう違うというより、株式市場に対してどういう立ち位置かという視点から分析してみます。純粋持ち株会社の場合は、より「事業ポートフォリオ管理」を株主から負託されているという意識が強く働きます。ソフトバンクしかり、NTTしかり。

ちなみに、9/25時点のNTTの時価総額は、7兆8091億円、主要な上場子会社として、NTTドコモ、NTTデータ、NTT都市開発、3社の持ち分を合わせると、6兆1037億円となります。こちらは親会社の時価総額の方が、1兆7054億円多くなっています。この場合は、親子上場は問題視されないのでしょうか?過去は、ドコモと時価総額が逆転していた時代は、マスコミは、この親子上場をこぞって批判していましたよね。

日立製作所は事業持ち株会社なので、親会社本体と上場子会社や非上場子会社との事業の重複回避や、管理・統制ルールの整理を行う必要性があります。直近でも9/2のプレスリリースにて、日立ソリューションズの社会・金融・公共分野のシステムソリューション事業のリソース集中のために、これらを吸収分割で日立製作所の社内カンパニーである情報・通信システム社に移管することが公表されました。

また、いささか旧聞ですが、2/1から三菱重工業と日立製作所の火力発電システム事業を統合した、三菱日立パワーシステムズが営業を開始しています。これは逆に分社化して外に出した例です。こうして、事業持ち株会社は事業の出し入れ・統合・整理・分離をして、企業価値を最大にしようとします。


■ 孫正義氏の事業ポートフォリオマネージャーとしての手腕への期待

少々簡単な種明しをしましょう。ソフトバンクの非常にわかりやすい(いつも勉強させてもらっています!)8/8に公表された「FY14第1四半期の決算報告資料」に、数字のからくりが載っています。

アリババはSEC基準でニューヨーク証券取引所に上場されました。SEC基準でアリババの2014/1~3/31の純利益のソフトバンク持ち分が336億円。ソフトバンクが保有していたIPO後に普通株式に転換される転換優先株の公正価値が増加分をIFRSでは1030億円の損失として一旦計上し、IPO後に利益に戻し入れる分を含めて、IFRSへの会計基準調整のための損失が989億円。第1四半期に、持分法投資損失(IFRSベース)が653億円になります。

つまり、ソフトバンクの財務諸表を真剣に見ようとすると、会計基準の違いが日・SEC・IFRSの三竦(さんすく)み状態が少なくとも今年度は続くということになります。のれんも総額1兆円超えていますし、投資家がソフトバンクの財務諸表をじっくり見て企業価値を測るなど、そもそも開示情報の基準がバラバラな中で、外部からは大変難易度が高い状態にあるといえます。

正直に言ってください。「市場が判定するには時間がかかりそうだ」ではなく、「会計基準が錯綜(さくそう)しているので我々には精緻に判断できません」と。

純粋持ち株会社であるソフトバンクには、Pepper君や太陽光発電事業への投資もポートフォリオに入っているわけで、残念ながら、これらの詳細なデータは有価証券報告書や決算説明資料では詳(つまび)らかにされていません。

孫正義氏の眼力を信じるか、自分の投資への裁量を重視して、個別にヤフー、スプリント、アリババに投資するかは、投資家の方々の判断です。

ちなみに、有利子負債が通常「財務レバレッジ」と呼ばれています。これはあくまで筆者の推測ですが、孫正義氏からすれば、この有利子負債に加えて、上場子会社の少数株主持ち分すら合わせて「事業レバレッジ」として、自己資金より多くの投資額を集めて、自身の事業意欲に使用させてもらっている、という感覚なのだと思います。

だって、誰も株主総会で、孫正義氏に対して、「もっと株主還元を!」なんて言えないでしょう。したがって、少数株主との利益相反など、ソフトバンクの現経営陣ががんばっている間は起こり得ないのであります。。。



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無借金企業、太陽光に投資 養命酒など 資金や土地活用

■ 本業専念と株主還元

経営管理会計トピック
手元資金が潤沢で無借金の上場企業が相次いで太陽光発電事業に乗り出していることが記事として取り上げられました。

2014/9/24付 |日本経済新聞|夕刊
無借金企業、太陽光に投資 養命酒など 資金や土地活用

(注)日本経済新聞の記事へ直接リンクを貼ることは同社が禁じています。お手数ですが、一旦上記リンクで同社TOPページに飛んでいただき、上記リード文を検索すればお目当ての記事までたどり着くことができます

記事では、養命酒製造、RKB毎日放送、大和冷機工業、などが取り上げられています。その他、実質無借金企業で太陽光発電事業に参入した企業が約60社もあるといっています。これらの企業の特質として、記事内では、「いずれも無借金あるいは手元資金が借入金を上回る実質無借金企業だ」というグルーピングがなされています。そして同記事には、「本業と関係ない事業に投資するより、自社株買いなど株主還元を優先すべきではないか、との意見もある」という感じの論調になっています。

記事におけるあるべき経営方針というものは、「本業に専念すべし」そして「余剰資金は株主に還元すべし」ということらしいです。


■ 事業ポートフォリオと投資ポートフォリオ

上記3社は、いずれも遊休土地や既存建屋の屋根の有効活用ということで、経営者としては株主から負託された資産からのリターンを最大にすべく経営努力の結果、すなわちROAを最大するための手段として、太陽光発電を選んだということです。

下表は、「社株買い高水準 上期、6年ぶり 資本効率を重視」の際に提示したものの再掲です。

管理会計トピック_自社株買い 
表の③を選ぶと、筆者が定義する「使用資産ベースのROA」は低下するのですが、「ROA」は、既存事業の収益性より小さくても、プラスでありさえすれば、全社としてROA向上に貢献することが見てわかるはずです。
事業投資する分野が本業でないのはけしからん、というのでは、GEは白熱電球を作り続ける会社であらねばならないし、ダイキン工業は、エアコンなぞ造ってはならず、飛行機用ラジエーターチューブを作り続けなければなりません。

それはイノベーションの否定????

要は、投資家として、自分自身で「投資ポートフォリオ」を組んで、好きな配分で「太陽光発電事業」を組み入れたければ、専業事業者への投資を組めばよいし、養命酒の製造販売事業にプラスして、遊休土地を現金化して配当(自社株買い)してもらうよりは、遊休土地からも少なからずリターン(新聞記事中では年利10%!)を稼いでくれる養命酒製造という投資商品を組み入れるかの選択は、株主の自由意思の問題です。

経営管理会計トピック_ポートフォリオの選択権 
意に沿わない経営者に対しては、さらっと株式を市場で売却してほかの経営者に乗り換えるか、株主総会にて、議題提案権を行使して、事業中止なり、経営者の罷免なりしてください。それが株主民主主義というものはないでしょうか。

それが嫌なら、投資ファンドマネージャーに一任して、自分は余暇を楽しんでください。
一方、経営者は自らが「事業ポートフォリオマネージャー」として時間を惜しんで働かなくてはいけませんが。。。




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米スタバ、日本法人完全子会社化 グループ内連携強化 紅茶店、日本導入を検討

■ 完全子会社化の損得勘定

経営管理会計トピック
スターバックス日本法人が米国本社にTOB(株式公開買い付け)により完全子会社化される方針が報道されました。完全子会社化のコストは1000億円とのこと。これは果たしてお得なのでしょうか。

2014/9/24付 |日本経済新聞|夕刊
米スターバックス 日本法人を完全子会社化 1000億円で、上場廃止へ


2014/9/25付 |日本経済新聞|朝刊
米スタバ、日本法人完全子会社化 グループ内連携強化 紅茶店、日本導入を検討

(注)日本経済新聞の記事へ直接リンクを貼ることは同社が禁じています。お手数ですが、一旦上記リンクで同社TOPページに飛んでいただき、上記リード文を検索すればお目当ての記事までたどり着くことができます


まず、現時点で、米国本社は日本法人からどれくらいリターンを得ているか、確認してみましょう。

(これらの分析は、全て有価証券報告書の記述、及びそこから筆者の類推が一部入っていることをお読みになられる前に了承しておいてください)

有価証券報告書にある「事業の内容」「経営上の重要な契約等」にある記載を確認すると、
  • 月次売上高の5.5%相当額のロイヤリティーを「エスビーアイ・ネバタ・インク」に支払う
  • 店舗開発・店舗運営の指導料を「スターバックス・コーヒー・インターナショナル・インク」に支払う
  • コーヒー及びコーヒーカップ等の商品は全て「スターバックス・コーポレーション」(またはその指定業者)から購入する

これらは、FY13のP/Lをベースに推定すると、次のようになります。
支払ロイヤリティー    : 6,967百万円
支払手数料        : 1,733百万円 (全額が経営指導料と推定)
原材料販売マージン: 16,486百万円 (商品売上原価:32,972百万円×マージン率(推定50%))

株主の権利としては、
同FY13の株主資本変動計算書より、次のようになります。
配当金:460百万円 (剰余金の配当:1,151百万円×持ち株比率(40%))

合計すると、25,646百万円 となります。

これに、
同FY13のB/Sから、純資産:46,777百万円なので、米国本社の持ち分比率(40%)から、
米スターバックス本社の持ち分は18,711百万円となり、

投資効率は、
ROI = 25,646百万円 ÷ 18,711百万円
    = 137%
となります。予想より高かったですか、それとも低かったですか?

仮に、原材料販売マージンを40%とした場合でも、ROIは122%になります。
上記推定計算はあくまで推定なので、甘く見積もってもROIは100%程度にはなると思います。

どうも、不採算な海外子会社を立て直すために、100%子会社にしてテコ入れすることを意図した完全子会社化とは、筆者には到底思えないのですが。。。
紅茶店を日本でも展開しないと日本法人の会社経営が本当に行き詰まるのでしょうか?


■ 支配権プレミアムの損得

ついでに、完全子会社化ということは、サザビーリーグから会社支配権を購入して、資本関係上も100%支配するということなので、この100%支配にこだわるために犠牲にしたコストの損得勘定を考えてみたいと思います。

M&Aの世界では、経営支配権獲得・影響力行使のために、大量の株式を購入する際に、流通市場での価格に上乗せして(プレミアムつけて)、支配権を獲得するための株式買収価格の上乗せ分を「支配権プレミアム(Control Premium)」と呼びます。

それでは、支配権プレミアムを簡易計算してみましょう。

新聞報道が9/24なので、9/22(23日は祝日で休場)の株価の終値は、1,399円。
Yahoo Finance から9/25時点の発行済株式数は144,221,400株。
ということは、9/24時点の時価総額は、201,766百万円(推定)。
これの60%がTOB対象なので、買収対象の現市場価値は121,059百万円。

一方で、新聞報道から、
ササビーリーグ社保有株(40%)を965円で買い付けるということは、
965円 × 144,221,400株 × 40% = 55,669百万円 
をササビーリーグに支払うということ。

その他の株主の保有株(20%)を1,465円で買い付けるということは、
1,465円 × 144,221,400株 × 20% = 42,257百万円
を一般株主に支払うということ。

よって、
支配権プレミアム = 121,059百万円 - (55,669百万円 + 42,257百万円)
            = 121,059百万円 - 97,926百万円
            = 23,133百万円
ということになります。

ネットで数字を考えたいので、報道の中には一株15円の配当を見送るとあったので、

配当見送りによるキャッシュ流出停止効果 = 15円 × 144,221,400株 × 60%
                           = 1,298百万円
と計算できるので、

(ネット)支配権プレミアム = 23,133百万円 - 1,298百万円
                     = 21,835百万円

となります。 

上記で、米国本社からみた日本法人からのリターンを、25,646百万円 と推計しました。
そして、(ネット)支配権プレミアムは、21,835百万円 と推計しました。
差引は3,811百万円のプラス。

なんと、
今回の米国スターバックス本社による日本法人の完全子会社化のための支配権プレミアムは、単年度の日本法人からのリターンで賄えることが分かりました。

日本企業が、「この投資は回収期間が○○年だから、この投資はGoだ!」「いや、こっちの案件の方が回収期間が○○年短いから、こっちの案件優先だ!」という会話がいまだ行われているとすれば、スタバ米国本社のCFO/CEOのほくそ笑む姿がますます目に浮かびます。



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戦略論の古典 クラウゼヴィッツの『戦争論』における「目的」と「目標」

■ 「目的」はパリ、「目標」はフランス軍

経営戦略(基礎編) 
前回は、クラウゼヴィッツの『戦争論』から、「目的」と「手段」の関係についてお話ししました。今回は、これに「目標」が加わるとどうなるかご説明します。

英語訳を調べると、いろいろ和訳が混同され、強いて区分すると下記のようになります。
「目的」:aim, objective
「目標」:goal, target

また、著名な検索サイトで調べてみても、様々な定義が存在し、特に目を引いたのは、「目的は抽象的な行動指針で、目標はそれを数値で表したもの」というのがありました。

まあ、かのクラウゼヴィッツはその著書でどう説明していたか、少々長くなりますが、引用させて頂きます。

戦争とは、敵の意思を屈服させることを「目的」とする武力行使である。敵にわが意思を押し付けることが「目的」である。敵の抵抗力を打破することは、「目的」に到達するための「目標」であり、物理的な力すなわち武力の行使は、目的達成のための「手段」である。



図解しますと、このようになります。

経営戦略(基礎編)_目的と目標と手段

「目標」は「目的」を果たすための当面の目標となり得ますが、具体策ではありません。具体策は「手段」として表現されます。

ビジネスで例えると、
  • A商品のマーケットシェアを10%にすることを「目的」としたら、
  • ビックアカウントのBスーパーの売上高を前年対比4割増しにすることを「目標」にし、
  • Bスーパーにボリュームディスカウントを提案し、かつ、売り場の応援人員を常時2名確保することを「手段」として選ぶ
ということです。

決して、抽象的な狙いが「目的」で、定量的な達成水準が「目標」という使い分けをしなければならないというわけではありません。

そこで、冒頭の「目的はパリ、目標はフランス軍」という標語。
これは、クラウゼヴィッツの祖国であるプロイセン(当時のドイツ)が、対仏戦争で勝利するための「目的」にしていたのが、敵国の王都である「パリ」の占領。「目的」達成のために当面の軍事作戦の対象として、「フランス軍」の撃破を「目標」に掲げたというプロイセン軍の方針を説明した一節でありました。


■ そして「戦術」の登場

クラウゼヴィッツを引用して最も説明しにくいのが「「戦術」です。なぜなら、「軍事学の本」「兵法書」というのは、一番具体的に、かつ一番大量に「戦術」についての記述がありますが、それは軍隊の戦場における運用の妙(みょう)に関する記述であって、この具体論が即時に経営に生かせるとは、筆者は思っていません。

(世の中には牽強付会(けんきょうふかい)もいいところで、長々と各種兵法書の記述を経営戦略に生かすには、というテーマで、ビジネス本が多数でています。個々の戦術に関する記述を、歴史上の戦争の事例や経営における他社の成功事例・失敗事例と結びつけているだけで、歴史・軍事好きなビジネスマン・経営者が趣味を兼ねて読むにはいいですが、あくまで事例の引き出しを多くするという目線でお読みになられることをお勧めします)

強いて挙げるなら、

戦勝の決定的要因は、①奇襲、②地の利、③多面攻撃である、、、


この後、延々と具体策が書いてあります。そのエッセンスのみお伝えするなら、

「戦術とは、戦略によって準備された個々の戦場で、戦争の目的である「敵の殲滅」を最も効果的に達成するための方策の集まり」

とでもいいましょうか。 

経営戦略(基礎編)_戦術とは

よく聞く、「ランチェスターの法則」を応用した弱者が強者に勝つ作戦みたいなものがこの部類に入ると思います。クラウゼヴィッツの上記3つの要因も局地的に数的優勢を保って、敵を殲滅することしか言っていません。この辺は、M.ポーターやハメルなど、経営戦略論の大家も揃って、「勝てるところに経営資源を集中する」ということを言っていることに通じます。


■ 「長篠の戦い」で戦術の具体例を説明する

日本史ならば、もう少しとっつきやすいでしょうか。「長篠の戦い(1575年)」とは、織田・徳川連合軍が、武田軍を破った戦いです。ここでも「破(やぶ)った」というのは、戦場において武田軍の殲滅に成功した、ということを意味しています。

戦力でいうなら、織田・徳川連合軍が3万8000人、武田軍が1万5000人と数で武田軍が劣勢となっています。しかも、設楽原(設楽ヶ原、したらがはら)という場所で武田方に野戦をせざるを得なくなるよう追い込んだことになっています。こういう類(たぐい)の話は、実は「戦略」の話であって、このいくさで「戦術」とは、織田・徳川連合軍が、いかに巧妙に戦場で軍隊を統率し、勝利を手にしたかという巧妙さを指します。

その例として、
  • 丘陵や川などの地形を利用して、武田軍に大軍が発見されにくいように布陣した
  • 3000丁の鉄砲を用意して武田軍殲滅のための大きな打撃力を用意した
  • 無防備な鉄砲隊を守るため、戦場に馬防柵・土塁を築いて、武田軍の突撃力を減衰させた
  • 信長自身が陣にいることを武田方に知らせて、信長の首をとるためには、馬防柵・土塁を破って織田本陣に突入しようと動機付けた

鉄砲の三段打ちなどは、後世の創作の様ですが、織田・徳川連合軍はほぼ上記のような戦場における主導権を握って、必勝パターンを作ったということでしょうか。

「主導権」と「戦力集中」。
これくらいの抽象度のコトバなら、経営のヒントになりますかしら?

さて、ほんのりと「戦略」も登場させ、「戦術」の歴史上の実例を説明しました。
次回は、ようやく「戦略」とは、に言及する予定です。

ここまで、「戦略論の古典 クラウゼヴィッツの『戦争論』における「目的」と「目標」」を説明しました。
経営戦略(基礎編)_戦略論の古典 クラウゼヴィッツの『戦争論』における「目的」と「目標」


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自社株買い高水準 上期、6年ぶり 資本効率を重視

■ 自社株買いは単なる株価操作か

経営管理会計トピック
上場企業の2014年度上期(4~9月)の自社株買いが、1兆8500億円と半期で08年度上期以来6年ぶりの多さになったそうです。

2014/9/23付 |日本経済新聞|朝刊
 自社株買い高水準 上期、6年ぶり 資本効率を重視

(注)日本経済新聞の記事へ直接リンクを貼ることは同社が禁じています。お手数ですが、一旦上記リンクで同社TOPページに飛んでいただき、上記リード文を検索すればお目当ての記事までたどり着くことができます

記事では、
「前回ピークの08年上期(略)はリーマン・ショックの局面で、株価下落に歯止めをかけるのが主な目的だった。これに対し足元では、株主還元強化や自己資本利益率(ROE)向上につなげる自社株買いが目立っている」
とありますが、08年度も今回も株価向上が狙いとしか思えません。最近の紙面上の報道では、、、


■ 自社株買いに積極的な経営の意思を見る

自社株買いの効果として、確かに「一株当たり利益の上昇」→「一株当たりの投資価値上昇」→「株価上昇」という流れになる蓋然性が高いと思われます。しかし、優秀な経営者はもっと経済合理的に自社株買いをしているのだと解釈しているのは筆者だけの思い込みでしょうか?

管理会計トピック_自社株買い 
上表をご覧ください。

①現在、事業に投下している資産が500、余剰資金が100ある状態で、当期純利益を50だけ獲得している状態

②余剰資金を使って自社株買いすることで、余剰資金を株主に返却した状態

③使用資産ベースのROAが10%だが、余剰資金を無駄に寝かしておくわけにはいかないので、1%の利益率しかリターンのない事業に余剰資金を追加投資して、当期純利益を51に増やした状態

筆者の見解からすれば、マイナスの利益率にならない投資案件ならば、その投資を実行すれば、ROEは上昇させることができます。しかも、ビジネスも広がり、将来の成長のネタを見つける機会も増えると思うのですが、、、

しかし、自社株買いの効果には勝てませんが、その手を使ってしまってはプロの事業者・経営者としては負けではありませんかね???


■ それでも、経営者が追加投資を選択しない理由

上記で、1%でも(マイナスでない限り)リターンが望めるなら、利益額もROEも増えることを簡単なモデルで説明しました。しかし、経済の実態はもう少し複雑なようです。

下図は、「法人企業統計調査」から全産業の「現金・預金」「純資産」の10年分の時系列データをグラフにしたものです。
経営管理会計トピック_法人企業統計_現金・預金 
経営管理会計トピック_法人企業統計_純資産 
キャッシュが積み上がるとともに、純資産(自己資本)も増えていっていることが手に取るようにわかると思います。これは、日本の企業全体が事業拡大のための投資を積極的に実施せず、内部留保をせっせと貯めている状況を表しています。そんなに、投資機会が見つからないのでしょうか?少しでもプラス(たとえ1%でも)なら利益額もROEも上昇するはずなのに、、、

下図は、「総務省統計調査」から全品目平均の「消費者物価指数(CPI)」の10年分の時系列データをグラフにしたものです。
経営管理会計トピック_総務省統計調査_消費者物価指数(CPI) 
ここからわかるように、「デフレーション」がずっと進行していることが分かると思います。
「デフレ」とは、簡単に言うと、「物価が下がる」つまり、相対的に「持っている現金の価値が上がる」ことを意味しています。

そうです。

企業は、キャッシュをB/Sに持っているだけで、何らリスクを負って新規事業に投資しなくても、利益が上がっていたのです。この場合、会計ルールによる損益計算をベースとした「利益」でなく、「企業価値」と言い換えた方がよいかもしれません。FY03からFY12までの10年間でCPIが1.2ポイント下がっています。年利とか複利とか難しく考えなくても、たった1%のリターンしか望めない投資案件より、キャッシュをそのまま持っていた方が得になることは火を見るよりも明らかであります。

何もしないことが企業経営のためになる。
「動かざること山の如し」

「デフレ」って本当に怖いですね。「アベノミクス」による経済政策が成功して「デフレ」を脱却することを願うばかりです。



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小林友昭

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