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成長性分析(2) トレンド分析の基礎

■ 「トレンド分析」とは「時間軸に沿って思い出に耽る」ことなり

管理会計(基礎編)
前回」は「成長性分析」を始めるにあたっての心構え的なことと、これからご紹介する手法の全体像をお話しました。さっそく今回は、「トレンド分析」の初歩から始めたいと思います。「前期比較分析」を複数期間並べるだけで「トレンド分析」となるものが多いので、説明を簡略化するために、まず両者の共通項からまとめて説明してしまいます。

「trend」とは、英訳すると「傾向、動向、趨勢(すうせい)、方向、傾き、向き」を意味します。財務分析では、「年次」「四半期」「月次」「週次」「日次」などという時間単位で、「売上高」「費用」「利益」「資産」「人数(従業員、顧客)」「生産高」「受注高」「受注残」などといった指標を並べてみて、

① 推移の傾きが上向きか下向きか → 将来予測
② 予算値や目標からどれくらい乖離しているか → 足元の事業管理の良否の判断

に関するインサイト(洞察)を得ようとします。

ここで、数字を眺める際のコツを2つお伝えします。

① 異常値(外れ値)があったら、「なぜ?」と原因を想像する
② 傾向から上向き・下向き・現状維持が分かったら、次の打ち手を想像する

これを筆者は、「時間軸に沿って思い出に耽る」と表現しています。この記事を書いている時点での格好の例としては、日経平均株価が、金融危機以降の高値を抜けるか、ITバブル(2000年頃)の高値を抜けるか、と騒いでいるあれです。

人は、「昔こういうことが起きたら株価はこれくらいだった。今の経済状態がこんな状況だから、これくらいまで株価が上がるのではないか。」と将来予測をするものです。

そして、「昔の株価水準に比べて、●●業界の平均株価は出遅れているから、●●業界の株を買っておけば、これからでも儲かるかも」と次の打ち手を考えるものです。

(決して、筆者は過去の株価チャートが将来の株価をすべて予言できる、とかテクニカル分析をしないと適正株価を見誤る、と申しているわけではありません。過去トレンドデータを見る際の心構えの一例としてお話しています)


■ トヨタ自動車の時系列データを使って成長性を見てみましょう

こういう時系列に沿った「トレンド分析(前期比較分析)」をするのに、格好の材料を提供してくれるのが、『有価証券報告書』の「第一部【企業情報】 第1【企業の概況】 1【主要な経営指標等の推移】(1)連結経営指標等」です。

『有価証券報告書』は、EDINETか、その企業のホームページ(投資家向け情報)から無料で取得することができます。

下表は、トヨタ自動車の「連結経営指標等」からの抜粋です。

財務分析(入門編)_トヨタ自動車_トレンド表

この表を一瞥(いちべつ)しただけで、トヨタ自動車の経営のすべてが分かる人は大変素晴らしい人です。筆者には、ひとつひとつの数字の裏付けをとっていかないと理解できません。

そこで、まず、手法の紹介も含めて、「売上高」にフォーカスして「売上高成長性分析」からやってみましょう。


■ 1.傾向分析 ①実数

実際の売上高数値を眺めて、あれこれ考えるやり方です。トヨタのFY13の売上高は、25兆6,919億円です。2013年の日本の名目GDPが478兆円だとか、前年のFY12の売上高:22兆642億円からは増えている、といった、何かと『比較』する基準が無いと、直観的にその数字のあらましを把握するのに通常は苦労するかもしれません。

財務分析(入門編)_トヨタ自動車_売上高推移(1)

ここで、企業が紡ぐストーリーに耳を傾けることになります。トヨタは、2009年から2010年にかけて、アメリカを中心にリコール騒動(豊田章夫社長が全米ディーラー代表の励ましの言葉に男泣きまでし、結局2011年1月にピラー訴訟はトヨタ側の勝訴で終結)があり、売上成長が止まってしまいます。その後、FY13中に1米ドル=80円台から100円台と円安基調になり、上記グラフのような売上高の成長を見せます。

このように、その時々のマクロ経済環境およびミクロ経営状況から売上成長の軌跡を味わっていくのです。これが、「思い出に耽る」の意です。

このようなトレンドグラフが提示された際、FY09~FY11の変化率を分かりやすくする目的で、下記のようなグラフを目にすることがあるかもしれません。

財務分析(入門編)_トヨタ自動車_売上高推移(2)

このグラフは、「嘘」はついていません。しかし、FY09~FY11間の変動をつかもうとするあまり、FY12以降の売上高の回復を、目の錯覚により実情以上に誇張することになり、将来の売上成長予測を見誤らせる可能性があります。

実は、筆者もこの類の、横軸と縦軸の交点が「ゼロ」でないグラフで経営報告レポートを経理部時代に上司からの指示で作成したこともありますし、証券会社のレポートで同種のグラフを目にしたこともあります。しかし、その後お仕えたCFOがこの種のグラフによる経営報告をすべてやめさせました。

なぜなら、この種の表現は、「嘘」はついていませんが、急激な変化を誇張しようとする隠された「意図」が入り込むことを排除できないからです。そのような変動幅を説明したい場合は、「実数」ではない表現方法を使います(それは次回に説明します)。


■ 実数は比較対象が無いと適正水準が判断できません

時間軸で、トヨタの売上成長の軌跡とその要因分析ができましたが、その業績結果が良好だったのか、または仕方がないと受け入れざるを得ないレベルだったのか、何かと比較しないと判断できない場合があります。リコールや円安が売上成長に与えた影響は、コンペチタ-との比較により、トヨタ独自の問題だったのか、マクロ経済環境を含んだ業界全体の問題だったのか、そしてその影響度合いはどれくらいだったのかが判明します。

まず、比較対象となる日産自動車の基礎数値を以下に表示します。

 財務分析(入門編)_日産自動車_トレンド表

下記のグラフは、同期間のトヨタと日産の売上高の実数トレンド比較を表しています。

財務分析(入門編)_トヨタ・日産_売上高推移(1)  

せっかくトヨタの売上成長基調の確認のための比較なのですが、一部しか説明できないんですね。FY09~FY11については、日産は順調に売り上げを伸ばしているので、トヨタはリコール騒動の影響で、競合に対してこの期間の売上高成長について、分が悪くなっていることが比較したからこそ分かります。一方で、リコール騒動から抜け、円安の影響が出てきたFY12以降は、トヨタは日産に対して高い伸びを示しています。

一部というのは、日産がFY12の売上高をFY11に比較して減らしている、今度は日産側の売上トレンドに関する説明の必要性が出てきて面倒になった、ということを意味しています。これは、ややこしいのですが、日産自動車のホームページの財務・業績ハイライトでも、決算報告資料でも、FY12の連結売上高は、96,296億円と、FY09~FY13まで、順調に売り上げを伸ばしていることになっています。有価証券報告書は一部の会社についてIFRSを採用しているため、中国の合弁会社を連結範囲とするか否かで、連結外としているのですが、その他の報告資料では、連結内としているために数字が乖離しているのです。

前回」付言した、業界比較での注意点はこのようなところに表れます。

ふっー。
一言で「成長性分析」といっても、まだ「実数」のところしか説明できていません。先はまだまだ長いですね。
財務分析(入門編)_成長性分析(2)トレンド分析の基礎

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