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パナソニック、資本コスト管理体制を事業部別に 来月から 中長期の成長に備え(3)

■ CCMの進化は事業部ごとの期待収益率の設定から

経営管理会計トピック
今回はパナソニックのCCMについての説明の最終回となります。「前々回」がCCMの概要、「前回」がCCMの計算方式を説明しました。「今回」は、43ある事業部ごとに異なる期待収益率(資本コスト)をどうやって設定するのか、そして、43事業部にどのように事業資金を配分するのか、極々基本的なファイナンス理論だけを使って簡略的説明を試みます。

それでは、新聞記事の紹介から。

2015/3/11|日本経済新聞|朝刊
パナソニック、資本コスト管理体制を事業部別に 来月から 中長期の成長に備え

(注)日本経済新聞の記事へ直接リンクを貼ることは同社が禁じています。お手数ですが、一旦上記リンクで同社TOPページに飛んでいただき、上記リード文を検索すればお目当ての記事までたどり着くことができます

「これまで期待収益率は全社一律で8.4%としていた。これを9%に引き上げるとともに、4月から43ある事業部ごとにレートを変える。為替や国内外の景気変動、設備投資などの要素を勘案して事業ごとにリスクを見極め、約4~16%の間で設定する。海外比率が高く内外の景気動向によって利益の振れ幅が大きいファクトリーオートメーション(FA)事業や電子部品事業は10%を上回る高い収益率を見込む半面、内需向けが中心で比較的安定した収益が見込める住宅関連事業などは低めに設定する。」


■ 「ポートフォリオ理論」の基礎を確認する

パナソニックが、資本コストを基準に各事業部の業績管理を行うとするCCM(キャピタル・コスト・マネジメント)の計算式は下記の通りです。

CCM = 事業利益 - (投下資産 × 期待収益率)

上式の「期待収益率」、どうやって4~16%のレンジで事業部ごとに設定すればよいのでしょうか。おそらくですが、もう手垢のついている手法なのですが、金融資産のポートフォリオを作成する理論があるので、こちらを拝借しているのだと思います。今回はこの理論の概要をご説明します。

① ビジネスシナリオの作成→期待収益率の算出

まず、事業部ごとに、事業の収益性を左右する要因を洗い出します。下記の例では、「為替変動」としました。つぎに、その為替変動の取りえるパターンとその発生確率を決定します。為替変動パターンごとに、事業収益性を仮定します。最後に、発生確率と予想収益率を掛け合わした期待値を求めます。

経営管理会計トピック_パナソニック_CCM_期待収益率の評価

期待値 = Σ(発生確率 × 予想収益率) なので、

事業部Aの期待収益率 = 50%×5%+20%×7.5%+30%×20% = 10%

上表を確認してください。事業部Aと事業部Bの収益性の相違をしっかり見てみましょう。

<同じところ>

1) 共により円安になった場合に利益が増えるビジネスモデルになっている
2) 期待値として計算した結果の「期待収益率」が共に10%となっている

<異なるところ>
3) 円高時と円安時の収益性の変動幅が異なる

計算結果から、確率論的な期待収益率は、同率となりましたが、取り得べき変動幅に差があります。直観的に、事業部Aは、事業部Bに比べて、良い時は良いが悪い時は悪い、リスクがより大きい感じがします。この場合の「リスク」とは、変動幅が大きいことを意味しています。このことを「ボラティリティ」が大きいとも表現します。

この何となく感じているリスク感を何とか、統計量で表すことはできないものでしょうか。

② リスクの評価

上記で計算された、期待収益率のばらつき具合を、統計値で表現してみましょう。

経営管理会計トピック_パナソニック_CCM_リスクの評価

「偏差」 = 予想収益率 - 期待収益率
「分散」 = Σ(偏差2×発生確率)
「標準偏差」 = √分散

リスク(ばらつきの大きさ)は、「標準偏差」で示すことができます。この標準偏差は元の数字と同じ単位で考えることができるので、事業部Aの標準偏差が、6.61%ということは、

円安 < 現状維持 < 円高
3.39% < 期待収益率(A) < 16.61%

と考えることができます。

事業部Bの、 7.61% < 期待収益率(B) < 12.39% に比べて、上限下限ともに大きくなっていますので、事業部Aはリスク選好的、事業部Bはリスク回避的な人向けの事業といえます。

おそらく、投資家から見ても、期待値が同じでも、リスクが高ければ、より高い期待収益率を求めてしまう、つまり、事業部Aの方が事業部Bより、ハードルレートはより高く設定される傾向があるといえます。

では、どこまで高く設定するか? 論理的には、16.61%まで高く設定しても、達成できる可能性はあります。実務的には、10.0% から 16.61% の間ぐらいに収まるでしょう。


■ 次は、事業部間の資金配分の問題

前章にて、各事業に対するハードルレート設定の判断材料として、「期待値」とか「標準偏差(リスク)」について説明しました。次は、各事業部にどれくらいの資金を投入するか、言い換えると、CCMにて、投下資産の保有規模の許容範囲をどうやって決定するか、それが問題です。

グラフ作図の面白さの都合から、今度は、事業部Xと事業部Yの設例を用います。

経営管理会計トピック_パナソニック_CCM_事業部Xと事業部Yの評価

この設例での事業部Xと事業部Yの組み合わせ方の妙が、前章の事業部Aと事業部Bの組み合わせより、より興味深くなっている点にお気づきでしょうか?

事業部Xは、
① 円高の方が予想収益率が高くなる
② 期待収益率が相対的に高い
③ ただし、ばらつき(リスク)(ボラティリティ)も相対的に高い

事業部Yは、
① 円安の方が予想収益率が高くなる
② 期待収益率が相対的に低い
③ ただし、ばらつき(リスク)(ボラティリティ)も相対的に低い

こういう性質が真逆の事業をなるべく多く組み合わせることで、事業ポートフォリオ全体の変動リスクを小さくでき、リターンを大きくできる可能性が高くなります。

では、事業部Xと事業部Yへの資金配分の組み合わせ(構成比)を見てみましょう。

経営管理会計トピック_パナソニック_CCM_事業部Xと事業部Yのポートフォリオ_数表

グラフ表示に到達する前に、新しい統計量の計算式を2つ確認しておきます。

「共分散」 = Σ(発生確率×事業部Xの偏差×事業部Yの偏差)

「事業の各組み合わせの分散」(事業部Xと事業部Yの各構成比率のひとつひとつの分散)
 = 事業部Xの構成比2×事業部Xの分散+事業部Yの構成比2×事業部Yの分散
   +共分散×事業部Xの構成比×事業部Yの構成比

「共分散」の統計量としての見方を補足します。この値が大きいほど、事業部Xと事業部Yの相関が高い(一方が大きくなると、もう一方も大きくなる)ことを意味し、符号がマイナスの場合は、収益率の増減の方向が逆(設例では為替変動に対して逆の動きをすることと同じ)であることを意味します。

経営管理会計トピック_パナソニック_CCM_事業部Xと事業部Yのポートフォリオ_グラフ  

では、グラフの読み方を説明します。

縦軸が、事業部Xと事業部Yを組み合わせた期待収益率で、横軸がその時々のばらつきの大きさを示しています。青い線上は、リターンとリスクのバランスが統計上は同じであることを意味しています。より高いリターンを得るためには、より高いリスクを許容する必要があります。

具体的には、リターンを13%望めば、リスクは6%を許容しなければならない、そのバランスが、リターンを8.2%望んだ時のリスク許容度:0.21%と同価値であるということ意味しています。

事業部Xに31%、事業部Yに69%の資金を配分した時が「最小分散ポートフォリオ」。筆者みたいなヘタレが一番喜ぶ組み合わせになります。

最後に、筆者が、パナソニックの管理会計の担当者を尊敬するのは、こうしたポートフォリオ選択の統計解析を、43事業部分やって、最適資本配分を意思決定しようとする努力に対してです。以上のたった2つの事業部の組み合わせだけでも、統計分析が大変なのに、これを、43事業部の組み合わせでやるんですよね。

ひたすら、頭が下がる思いです。



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