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(スクランブル)海外M&Aブームの罠 価格高騰、収益貢献には時間

■ 海外M&Aが現在ブームだそうです。みんなが買えば値段は上がるのが道理

経営管理会計トピック

足元の企業業績の回復基調から、海外M&Aが活発になっています。一方で買収価格が高騰してきており、きちっと予想リターンが見込めるか、「EBITDA」という財務指標を使って、最近の買収価格は「割高」ではないかとの分析記事がありました。

2015/3/21|日本経済新聞|朝刊 (スクランブル)海外M&Aブームの罠 価格高騰、収益貢献には時間

(注)日本経済新聞の記事へ直接リンクを貼ることは同社が禁じています。お手数ですが、一旦上記リンクで同社TOPページに飛んでいただき、上記リード文を検索すればお目当ての記事までたどり着くことができます

「20日の日経平均株価は約15年ぶりの高値水準を付け、2万円乗せが視野に入ってきた。自社株買いや増配が好感されているが、一方で市場が消化し切れていない材料もある。企業が成長戦略の切り札として打ち出す海外企業のM&A(合併・買収)だ。世界的な株高で買収価格が高騰し、投資額に見合う収益が見込めるか気迷いムードも漂う。」

(↓下図は、2015年3月21日 日本経済新聞(朝刊)記事に添付されていたものを再掲)

経営管理会計トピック_海外企業M&Aの増加_レコフ調べ 
みんなが買えば、需給バランスで値段は上がります。インフレ下では、名目金額も増えます。デフレ下では、モノに投資すると、お金の価値が減少していました。マクロ・ミクロ経済学の初歩の初歩的な現象に過ぎないのですが。。。


■ なぜ「EBITDA」で割高かどうかが分かるのか疑問です

新聞記事では、現在の海外M&Aの買収金額が割高に映っているそうで、少々長くなりますが、その根拠と、関係者の見解を記事の転載にてご紹介します。

「最近のM&Aになると「海外市場の競争の激しさを理解したうえで買収を決めたのか、確証が持てない」と歯切れが悪い。その不安の根っこには「M&Aに高いお金を払いすぎていないか」という思いがある。」

「M&A助言会社GCAサヴィアンが集計した興味深いデータがある。日本企業が海外企業の買収で投じた資金をEBITDA(利払い前・税引き前・償却前利益)で割った倍率を見ると、買収対象が米国企業、欧州企業とも今年は平均で15倍を超えている。」

「一般に10倍未満が適正水準とされることが多い。GCAの名倉英雄氏は『買収価格が高くなっているのは事実だが、いい会社を買えばそれ以上の収益貢献が見込める」と語る。12年に米社を買収した当時は割高といわれながら、北米の空調需要の拡大の追い風を受けて高い成長を続けるダイキン工業が好例だという。』」

(↓下図は、2015年3月21日 日本経済新聞(朝刊)記事に添付されていたものを再掲)

経営管理会計トピック_海外企業M&Aの買収価額の変化_GCAサヴィアンまとめ

先に、筆者の見解から申し上げると、「このような買収金額をEBITDAと比較した際、絶対値としての計算結果からは何の示唆も得られない」というものです。だって、「ダイキンがグッドマン・グローバルを買収した価値は、買収した時点のEBITDAで測っても分からないと自らおっしゃっているでしょ!」


■ 「EBITDA」の生い立ちと使命は終わっていることについて

EBITDA(Earnings Before Interest, Tax, Depreciation and Amortization)の計算式を簡単なもの1パターンだけに絞ってまずご紹介します。

EBITDA = 税引前利益 + 支払利息 + 減価償却費 

そもそも、なぜこのような財務指標が使われ始めたかを説明します。2000年前後のITバブルだった時代、低金利政策を採っていた米国に世界中から資金が集まり、主に米国を拠点とするヘッジファンド(投資ファンド)や投資銀行が世界各国の企業の買収に乗り出そうとしました。

そのころ、IFRS(前身のIASですね)などはまだ認知されていなかった時代で、各国の様々な規制の上で公表された「財務諸表」をいちいち米国会計基準(SEC基準)に修正して、比較していては膨大な労力を必要とし、機動的な(手抜きの)デユーデリの実施が困難になりつつあることに、関係者たちが気付きました。

そこで、世界各国の特殊事情、「金利水準」、「法人税率」、「耐用年数と採用可能な減価償却方法(それも複数ある)」の違いのすべてを一切捨象した「収益性指標」が無いものか、考えました。そして思いついたのです。そんな違いが起こる要因は最初からなかったことにすることに。

こうして生まれた「EBITDA」は、一番「営業キャッシュフロー」に近い利益概念として、ファイナンス分野の専門家も、「DCF法」に代えて企業価値分析を簡易に実施する際のツールとして使い始めました。

「EV / EBITDA 倍率」といって、企業買収資金総額が被買収企業の擬似的な年間営業CFの何年分に相当するか、で買収金額が割高か、割安かを判断するようになったのです。

ちなみに、EV(Enterprise Value):企業価値 = 時価総額 + 有利子負債 - 現預金

これって、設備投資の意思決定指標である手垢のついた「投資回収期間」と同じ発想のものです。そして、現在では、お金の「時間的価値」を考慮していない判断基準ということで、プロの間では見向きもされていない指標なのです。

「タックス・インバージョン」と「OECDの課税ルール強化・共通化」の動き、資金調達市場のグローバル化、IFRS導入による減価償却方法の収斂、等、もはや公表財務諸表でも少なくとも、グローバル企業については十分比較考量できる時代になりました。さらに、「キャッシュフロー計算書」の見方も当時に比べてずいぶん一般的になってきました。

早く、「EBITDA」さんには、財務分析の世界から引退して頂きたいですね。


■ ダメ押しで「EBITDA」のどこがおかしいのか?

「EBITDA」の一番の売りは、本業から生み出される「営業CF」に一番近い概念というものです。ですから、「キャッシュフロー計算書」から「営業CF」を拾って来れば、「EBITDA」はもはや不要です。

「営業CF」は、「EBITDA」が相手をしている「P/L」の世界だけでなく、「運転資金回転率」も考慮したものです。つまり、「棚卸資産」「売上債権」「買入債務」といった「B/S」の住人たちの増減も加味されます。まさか、企業買収を試みて財務分析しているプロの方々は、運転資金と営業CFの関係を知らないわけはないですよね。

もうひとつ、罪なところは、「EBITDA」が偏屈な会計基準の影響を受けない実質的な企業業績(収益性)を示す指標である、と誤解されて紹介されている点です。

法人税も払っていない、多額の有形無形固定資産(時にはのれん)の取得額も考慮されていない、利息も払っていない、そんな「収益性指標」は、何がどれだけ儲かっていると説明できるものなのでしょうか。

この点については、既に米国では「死亡宣告」が出ており、ワールドコムの不正経理事件を受けて、「レギュレーションG」(SEC:2003年)で、会計基準に準拠した利益指標を合わせて表示するように義務付けられています。

つまり、「EBITDA」だけ単独でのさばらせないよ、ということです。翻って日本の関係者の意識と、「EBITDA」の文字が躍る財務分析レポートや投資指南レポートの数々。。。

最後に、「EBITDA」という指標の使い方なのですが、これはあくまで単年度ベースの極めていびつなCF指標。それを分母にして、トレンドグラフ(上掲の折れ線グラフ)にて買収金額との比率を並べても、「ぬえ」のような正体不明の「EBITDA」なる基準値からなる分母が動くので、複数年の比較にはなりません。これは、グラフを使用した分析手法が間違っています。

まあ、投資アドバイザリー企業にもいろいろ事情はあるようですから、揚げ足取りはこの辺で。

ご参考まで、昨年の投稿記事を改めて紹介しておきます。

⇒「新規公開株の横顔 リクルートホールディングス メディア事業が収益源

このIR方針をどう解釈するか、後は読者の方々の賢明なご判断にお任せします。



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