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(一目均衡)自社株買いの功罪 編集委員 北沢千秋

■ ROEブームの渦中でも本質を分かっている記者はいらっしゃいます!!

経営管理会計トピック
「ROE」重視の風潮が2014年の株式市場を席巻しました。
それを後追いするように、このような新聞記事が出ていました。

2015/3/22|日本経済新聞|朝刊 (羅針盤)「ROE革命相場」始まる

(注)日本経済新聞の記事へ直接リンクを貼ることは同社が禁じています。お手数ですが、一旦上記リンクで同社TOPページに飛んでいただき、上記リード文を検索すればお目当ての記事までたどり着くことができます

「企業の稼ぐ力の復活を柱とする政府の成長戦略をきっかけに、今回ようやく日本の経営者は自らROEに向き合い始めた。そうした変化を投資家も歓迎し株価が上がる。資本効率を高める動きがもっと広がれば、「ROE革命相場」は長続きするはずだ。」
(編集委員 三反園哲治)

論旨は、海外投資家を東京市場にもっと呼び込むために、東証上場企業の平均で8%台と低い(?)ROEを、米国企業並みに15%前後に引き上げれば、中長期マネーも惹きつけられる。1部上場の株主配分(配当や自社株買い)は15年3月期予想で、13兆4000億円と過去最高を更新し、なかでも自社株買いをすれば市場に流通する株式数を減らすことで、需給が改善し、株高にもつながる、とのことです。

記事を読んで正直ガッカリしました。ほとんどの株価は、足元の配当や自己株取得(その結果もたらされるROEの分母減らしによるROEの見かけ上の改善)で値付けられているのはなくて、将来キャッシュフローの現在価値で適正値が割り出されます。と筆者は信じているからです。

だからこそ、中長期の企業の事業計画や、R&D、コンペチタ-との財・サービス市場における競争状況から、将来の企業業績を予測することが大事で、それ以外の要因は短期的な価格変動(はっきり言って株価形成のノイズ!!!)にすぎません。それが、たとえ経営者による自社株買いの演出であっても。

同じ日刊紙でこういう記事も過去に掲載していますよね。
⇒「(スクランブル)高ROE株、買い疲れ 投資家は改善度に注目

ということで、署名記事をあからさまに批判したくなった2日後に、胸をすくような、これまた別の署名記事を同紙で目にしました。\(^^)/

2015/3/24|日本経済新聞|朝刊 (一目均衡)自社株買いの功罪


「『できれば自社株買いはやめてほしい……』。農林中金バリューインベストメンツ(NVIC)の奥野一成・運用担当執行役員は複雑な表情だ。
 話題の主はファナック。株主還元と投資家向け広報に後ろ向きな企業の代名詞といわれてきた同社が、増配か自社株買いを検討すると伝えられ、市場はその「変節」を歓迎した。
 「日本のバークシャー・ハザウェイ」を目指して農林中央金庫からスピンオフしたNVICは、運用するファンドでファナック株を長期保有中。それでも株価急騰を喜べないのは、『株主が還元でお金を受け取るよりも、会社に預けていた方が高い利回りを得られる』と考えるからだ。」
(編集委員 北沢千秋)


■ 北沢氏のロジックを追っかけます!

北沢氏の論旨は次の通りです。

短期マネーは自社株買いをはやすが、長期投資家の目線は冷ややかである。なぜなら、自社株買いが本当に賢い選択かは、現在の株価水準との見合いだからである。企業が、貸借対照表(B/S)の借方(左側)にある現預金を使って、貸方(右側)の純資産を買い戻すのが自社株買い。「PBR」が1倍を下回っている株価水準の場合、企業が持っている現預金の再投資先として、自社株を選択するのは、経済合理的だからである。

ここでちょっと解説。

※ PBR: Price Book-value Ratio (株価純資産倍率) = 株価 ÷ 1株当たり純資産

筆者は、PBR = 時価総額 ÷ 純資産(B/S上の簿価) の計算式の方が好みですが。

この指標が、「1」を下回っているということは、純資産のB/S上の簿価が、株式市場で値段が付けられている時価(1株の値段が株価。純資産全体の評価額は時価総額となる)より大きい(高い)ということ。

「純資産の簿価 > 時価総額」 または 「1株当たり純資産 > 株価」 

という不等式が成立しているということ。

これって、相対的に割安の値段(株価)で、その会社の保有資産が買えるということを意味しています。ただし、企業継続(ゴーイングコンサーン)に疑義がある、つまり倒産のリスクがあったりすると、それが株価に織り込まれて「1」を割り込むことがありますが、それは、マスコミ報道や『有価証券報告書』などを注視していれば分かること。

それから、業種別・規模別にもPBRには一定のレンジがあるので、気になる方は東証の下記リンクからご自身で確認してみてください。

規模別・業種別PER・PBR(連結・単体)一覧 (←月別データ)
 (2015年2月は、原油安と低金利から、石油関連、銀行業などが「1」倍割れ)

簡単に言うと、投資家が10%のリターンを期待している時、100円で110円の価値のあるモノをいったん買って即時110円で転売すれば、10%のリターンが手元に残ります。つまり、株価:100円で、110円の価値がある会社の純資産が買うことがそれと同義なのです。

次は、視点を経営者に移します。経営者が、新規ビジネスへの投資の利回りが、5%と見込んでいて、同時に、自社株のPBRが「0.90909....」だったら? 余裕資金が手元にあって、新規ビジネスへの投資か、自社株買いかしか選択肢が無い場合、自社株買いをすれば、10%のリターンが見込めます。同時に、「ROE」も改善しますしね。

さらに、有利子負債の借入利息が、10%より低く3%だったら? 手元資金が無くても、3%でお金を借りて、自社株買いをすれば、その瞬間で7%のサヤをとることができます。
(実際には、タックスシールドが効くので、もっとサヤは大きくなりますけどね、、、)
こうして、純資産を有利子負債に置き換えるのは、「リキャップCB」といって、これも2014年に結構、流行りましたよね。

リキャップCBについては下記投稿をご参考に。
⇒「洋インキHDの今期ROE8%に改善 最高水準に迫る


■ じゃあ、「PBR」が1倍割れだったら、自社株買いは定石(鉄板)なの?

そうは問屋が卸しません。

足元の「PBR」が「0.90909....」なのと同時に、10%のリターンが見込める新規ビジネスへの投資案件が併存していたら??? 筆者なら、迷わず新規ビジネスへの投資案件を選択します。どっちも利益率は10%で同じですが。そして逆に、ROEは改善しませんが。

どうしてだと思います?

それは、新規ビジネスで10%のリターンを得た方が、企業が成長するからです。企業が成長し、利益率が同じなら、次のビジネスチャンスで投資に回せるお金、株主に配当として分配できるお金、そう、絶対額としての利益(資金、内部留保ともいえる)が増えるからです。

この辺の理屈は、北沢氏の記事にも同様の記述があります。

「NVICの奥野氏は「自社株買いや増配の要求は所詮、限られた利益のパイをどう切り分けるかの議論」と主張する。それよりも望むのはパイの拡大で、持続的にパイを大きくできる企業が投資対象だ。
 一例が、やはり長期保有する信越化学工業という。同社の金川千尋会長は「ROEを高めるために最も重要なのは利益の絶対額を増やすこと」が持論。ROEが高くても利益の額が小さければ、成長の原動力となる機動的な大型投資ができないからだ。」

真っ当な経営者ならば、新規ビジネスに投資して、企業を成長させて、分配可能利益と次のビジネスチャンスへ回す内部留保の拡大を貪欲に追求するものでしょう。そこで、「自社株買い」を選択しようものなら、自ら事業拡大のための力量は持ち合わせておりません、と、経営者失格との烙印を自身に押すことになるのです。

それにしても、新聞社というのは、さすが言論の自由を尊重する本家本元です。「ROE」や「自社株買い」に対して、異なる見解を持つ編集委員が、異なる論旨の記事を自由に書いていいことになっているのですね。いやあ、日本国憲法第21条は、その情報を受け取る側には、取捨選択の眼力を養うことを強制しているわけです。権利と義務はまさに裏腹の関係ですね。

まあ、編集委員の署名記事は、こうして批判にさらされて、自然淘汰の力が働いて、最良の署名記事だけが生き残る、、、舌先三寸だけで生活している、筆者のような経営コンサルタントも同じ宿命を背負っているわけで。。。厳しい世界です。お察しします。

だから、筆者も覚悟の上でネットに名前をさらしていますよ! ガチ勝負のつもりですが。。。誰ですか? 「蟷螂之斧」「夜郎自大」「井の中の蛙大海を知らず」と言っているのは?(^^;)


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