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真相深層 老舗ミツカン20年の計 米で売上高超す買収、中埜会長に聞く「パスタソースは米国版『味ぽん』」

■ 同族非上場企業の強み

経営管理会計トピック
調味料大手のミツカンホールディングズが6月(いささか旧聞ですが)に英蘭ユニリーバから21億5000万ドル(約2300億円)で北米パスタソース事業を買収した件につき、中埜会長へのインタビュー記事が出ました。

2014/9/27付 |日本経済新聞|朝刊
真相深層 老舗ミツカン20年の計 米で売上高超す買収、中埜会長に聞く「パスタソースは米国版『味ぽん』」

(注)日本経済新聞の記事へ直接リンクを貼ることは同社が禁じています。お手数ですが、一旦上記リンクで同社TOPページに飛んでいただき、上記リード文を検索すればお目当ての記事までたどり着くことができます

記事では、「自社売上高(2014年2月期で1642億円)を上回る巨額投資をした裏側には、200年以上続く同族非上場企業ならではの長期的な発想と準備があった」とあり、また「四半期決算を意識し、いかに早く収益を出すかを日々考える上場企業の経営者とは無縁の発想がある」ともありました。

なるほど。
上場会社は、何よりも株主への還元を優先し、非上場会社は、譲渡制付限株式の所有者に対しては、株主還元より優先(というより無視!?)して企業の中長期的収益力向上への投資をするという思い込みはないでしょうか。もしそうなら、現存する上場会社はいつか利益が出なくなり、淘汰され、非上場会社から新たに上場会社が生まれてくるという新陳代謝が繰り返されるだけということになります。

つまり、上場会社からは、利益が出ているうちに早く配当で搾り取って、淘汰される前に投資を回収するという行動は、投機家おっと失礼、投資家としてまっとうな投資戦略ということになります。

冗談はこれくらいにして、非上場、同族無関係に、中長期的に企業成長に投資できる会社が生き残るというのは、少なくとも会社が Going Concern として継続していくための「必要条件」だと思います。そのために、「非上場」や「同族経営」がそのまた「必要条件」なのだとしたら、上場・株式公開という経済行動は、賢い財務戦略ではないようです。

非上場会社には、中長期的視点経営を賛美し、上場会社には株主還元を強いる、報道の在り方が問題ではと思いますが、皆さんはいかがでしょうか?


■ 買収の意味

今回の買収の意味は、ビジネス視点もありますが、非上場とはいえ、ミツカンの企業価値向上のために、プラスかマイナスか、から見てみることにしましょう。

インタビューにより、「米国ではパスタソースは(ポン酢製品の)『味ぽん』みたいなもの。マーケティングの考え方は一緒だ」「日本と米国の経営資源を融合し、(筆者注:米国市場で味ぽん販売ノウハウを活用して)新たな売り方の提案を進める」との中埜会長の意図が汲み取れます。つまり、ミツカンの持つ形式知(時には暗黙知)による経営ノウハウを北米のパスタソースの製造販売に活かせれば、いわゆる「事業シナジー」が発揮されて、買収額以上の剰余価値が生まれるというストーリーです。おそらくそうなのでしょう。

と同時に、「新興国市場ではなく、政治経済が安定している市場を選択した」というのも、事業リスクと成長の機会を天秤にかけたこと以上に、既存ノウハウが一番発揮できる市場として「北米-パスタソース」を事業選択したということです。

この練達の経営者の眼力の正しさを経過観察していきたいと思います。

そして、この事業の多角化は、事業ポートフォリオの形成につながります。インタビューでも「企業の永続性のために「資産と収益源の分散」が必要という考えに基づく」とあります。

これは、筆者が以前の記事で言及したように、「投資ポートフォリオ」と「事業ポートフォリオ」の選択権の問題でもあります。今回は非上場なので、後者の視点で投資が行われたということです。


■ 投資の原資に興味あり

今回の買収案件をお金の面から見てみると、「00年代以降、地道に資金を積み上げ、買収に使える自己資金を16億ドル蓄えた」「今回のM&A(合併・買収)資金の一部は銀行からも借り入れており、蓄えた16億ドルのうち8億ドルは手元に残せる」との記述がありました。

残念ながら、ミツカンホールディングズは非上場なので、EDINETで財務諸表を確認することができません。そこで、「法人企業統計」から「平成24年、食料品製造業」の財務諸表から、おおよその推測をしてみたいと思います(全くの興味本位からです)。

以下は、横道。
同社のホームページから資本金1000万円とありますが、持ち株会社としての数字です。連結従業員が約2970名なので、資本金10億円以上の会社の1社あたり従業員数は1318名と出たので、ミツカンには資本金10億円以上の会社の統計値を適用することにします。皆さんも、最近はやりの「ホールディングズ」に注意してください。有価証券報告書でも、「○○ホールディングズ」の数値は、従業員数、平均年齢、平均勤続年数、平均年間給与が異常値になり、昔みたいにグループ全体の実態が分かりにくくなりました。ここは、ディスクロージャー制度の限界みたいなもので、今後の改善を期待します。
(横道終わり)

法人企業統計からは、下記財務比率データが確認できました。
総資産回転率: 1.14(回)
現金・預金構成比: 5.1%
有価証券構成比: 1.5%
有利子負債構成比: 11.1%
利益剰余金構成比: 29.1%

ミツカンホールディングズのホームページ及び当該記事から、
FY13売上高: 1642億円 なので、

総資産: 1440億円
現金預金: 58億円
有価証券: 22億円
有利子負債: 160億円
利益剰余金: 419億円

と推計できます。

しかし、記事には16億ドル(なぜドル表示なのかはわかりませんが)の自己資金を蓄えたとあるので、1ドル=100円で換算すると、1600億円の自己資金、これが、現預金+有価証券なのか、利益剰余金を言っているのか、定かではないのですが、現預金+有価証券と類推すると、ミツカンのB/Sにおける現預金+有価証券の平均超過額は、1520億円。ここから800億円は子会社株式に振り替わるので、720億円が平均値からの超過分。

有利子負債は、2300億円の買収資金の内、手元資金から800億円出しているので、差し引き1500億円の借り入れとなり、同額分だけB/Sの子会社株式としても借方増となります。

貸借とも、これらの分だけミツカンのB/Sが膨らんでいると仮定すると、

現預金+有価証券: 800億円 (17.9%)
有利子負債: 1660億円 (37.2%)
利益剰余金: 1939億円 (43.5%)
総資産: 4460億円 (100.0%)

記事より、北米のパスタソース市場は2000億円超。このうち、買収会社のシェアは33%なので、売上は660億円増収見込み(記事には650億円と記載があり、以下の計算はこちらを採用)。

合計で、今期の売上見込は2292億円となるので、
総資産回転率を再計算すると、0.51(回)となります。

また、現預金、有価証券、有利子負債と利益剰余金から、DEレシオもどきを計算すると、

業界平均値は、
DEレシオもどき = (11.1% - 5.1% - 1.5%) ÷ 29.1%
           = 0.15

ミツカンホールディングズ推計値は、
DEレシオもどき = (37.2% - 17.9%) ÷ 43.5%
           = 0.44

総資産回転率もDEレシオもどきも、業界平均を大きく下回る結果となりました。

皆さんは、この推計値と中埜会長の眼力とどちらを重視されますか?

私見ながら、筆者は会長の「各地の食文化にあったブランドをつくっていく」という経営方針を支持するものであります!

しかしながら経営は結果が全て。今後も経過観察を続けていきたいと思います。





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